155. 妖精の腿のレシピ

文字数 544文字

 批判は容易で単純だから、フェアリーテイルよろしく明るくいこう。

 僕は卵から生まれた。
 両親は知らない。

 細くて縦に長い生き物が、毎日食べ物を持ってきてくれる。
 食べきれないくらい、たくさんだ。
 幸せだなぁ。

 数メートル四方の沼地で共同生活。
 500匹くらいの友達と、身を寄せ合っている。
 朝も昼も夜も一緒でさびしくないよ! たまに喧嘩しちゃうけどね。

 友達が言った。

「オレらが生まれたのって、あの細いののおかげなんだって!」
「そうなんだ! 食事も寝床も申し分ないし、感謝しなくちゃね!」
「だな!」

 惜しむらくは、プレゼントを探しに行こうにも、沼地から抜け出せないことだ。
 いつかこの気持ちが届くだろうか?

 幼年期は終わり、僕らは移送された。

 あんなに親切だった生き物は、どんな未来を僕らに見せてくれるのだろうか?
 楽しみで仕方ない。

 上半分は捨て、下半分はズボンを脱がして消毒、殺菌する。煮出し汁で香りを立て、フレンチで有名なショーフロワソースをかける。ハーブで目も彩に飾る。
 皇太子も絶賛した妖精料理だ。

 せめて最後まで、フェアリーテイルとして騙されて欲しい。

 血に塗れた下半身の切断面を支えに、前足で体を起こし、じわじわと迫る死に絶望の瞳で天井を仰ぐ妖精が、現代でもいませんように。
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