193. 隕石が当たったら

文字数 642文字

 不運な男がいた。

 学生時代、自宅で漫画を嗜んでいたところ、隕石が落ちてきた。

 直径15センチほどの鉄の塊は腰に激突し、大痣を作った。

 社会人になって数年、約4500万円の車をローンで購入し、明日はドライブと意気込んでいた矢先、隕石が落ちてきた。

 重さ約十二キロ、宇宙出身の丸い奴はボンネットに直撃し、新車を破壊した。

 新婚旅行の最中、奥さんとロマンスを話しながら料理に舌鼓を打っていた時分、六十キロ先に隕石が落ちてきた。

 直径約100メートル、爆風でレストランの窓ガラスは割れ、自分も妻も風でもみくちゃにされた。

 念願のマイホームを海の見える丘に建て、家族と平凡に過ごしていた頃、大西洋に直径約150メートルの隕石が落ちてきた。

 第一波で家が流され、第二波で丘が流され、大都市一つ丸ごと呑み込んだ。

 彼はまだ生きていた。
 そういう意味では、彼は運が良かった。

 老境に差し掛かったある夜、男が夜空を見上げる。
 流星群だ。

 その内の一つが隕石となり、男の真上に落ちてきた。

 星が満月のように明るい。
 最期の景色には乙だ。
 酒があればなぁ。

 大気の圧縮で周囲は約1600度に燃え上がり、男は一瞬にして蒸発した。
 不運な男だ。

 一回目で死んでも、二回目で死んでも、三、四、五回目で死んでも、何が違う。

 私たちはいずれどんな形でさえ死ぬのに、なぜ生き続ける。
 不老不死が実現すれば無条件で食いつくか?
 なぜ、私は、自殺しないのだろう?

 死ねばいいのに。

 死ねない理由を探して、私は生きていく。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み