141. 非エッセンシャル思考
文字数 720文字
夏の日、蟻 は穴倉に穀物を溜めていた。
冬に生き残ろうと、あくせくと働いていた。
蝉 は歌を歌っていた。
少しずつレパートリーを広げ、仲間内で批評し、甘い声の出し方を学んだ。
心を騒がす歌を求め続けた。
厳しい冬がやってきた。
蟻は蓄えを取り出し、日々計画的に消費した。
常に腹が空き、春まで持つか不安で、安心しようと可能な限り仕事を増やした。
ふと歌歌いの蝉が気になり、会いに行った。
彼は生きているだろうか?
世界的なロックバンド「蝉2」のメインボーカルは、光り輝くステージの後、打ち上げもファンの殺到もかわして、蟻を出迎えた。
「良かったの?」
「もちろん。明日も会える仲間やファンよりも、旧友との時間を選ぶよ」
垢抜けたレストランで、蟻は蝉に尋ねる。
「冬は恐ろしくなかった?」
「まあね。食糧を蓄えたかったさ。でも、二つはできない。歌を歌わずに生きる他のすべての道を、捨てたんだよ」
「努力はつらくなかった?」
「どうかな。毎日歌って、気になる点を洗い出して、明日それを試して……ただ、それを、繰り返していただけだから」
今度は逆に、蝉が蟻に尋ねた。
「最近どう?」
「商社で係長をしながら、転売の副業をして、夜間のプログラミングスクールに通って、株価が上がりそうな銘柄を探して、婚活サイトに登録して、SNSに毎日投稿して、実用書を漁って、為になりそうなネットの情報があればとにかく跳びついて経験値を上げているよ」
蝉は再び尋ねる。
「まさに働き蟻だね。それで、君は、何が一番好きなの?」
「……え?」
蟻は答えに窮した。
「全部大事で、全部やり切るさ」
春の訪れを待たず、蟻は過労で倒れた。
死の瞬間に言うには、
「僕は、僕が一番やりたかったことは――」
冬に生き残ろうと、あくせくと働いていた。
少しずつレパートリーを広げ、仲間内で批評し、甘い声の出し方を学んだ。
心を騒がす歌を求め続けた。
厳しい冬がやってきた。
蟻は蓄えを取り出し、日々計画的に消費した。
常に腹が空き、春まで持つか不安で、安心しようと可能な限り仕事を増やした。
ふと歌歌いの蝉が気になり、会いに行った。
彼は生きているだろうか?
世界的なロックバンド「蝉2」のメインボーカルは、光り輝くステージの後、打ち上げもファンの殺到もかわして、蟻を出迎えた。
「良かったの?」
「もちろん。明日も会える仲間やファンよりも、旧友との時間を選ぶよ」
垢抜けたレストランで、蟻は蝉に尋ねる。
「冬は恐ろしくなかった?」
「まあね。食糧を蓄えたかったさ。でも、二つはできない。歌を歌わずに生きる他のすべての道を、捨てたんだよ」
「努力はつらくなかった?」
「どうかな。毎日歌って、気になる点を洗い出して、明日それを試して……ただ、それを、繰り返していただけだから」
今度は逆に、蝉が蟻に尋ねた。
「最近どう?」
「商社で係長をしながら、転売の副業をして、夜間のプログラミングスクールに通って、株価が上がりそうな銘柄を探して、婚活サイトに登録して、SNSに毎日投稿して、実用書を漁って、為になりそうなネットの情報があればとにかく跳びついて経験値を上げているよ」
蝉は再び尋ねる。
「まさに働き蟻だね。それで、君は、何が一番好きなの?」
「……え?」
蟻は答えに窮した。
「全部大事で、全部やり切るさ」
春の訪れを待たず、蟻は過労で倒れた。
死の瞬間に言うには、
「僕は、僕が一番やりたかったことは――」