28. サウィン

文字数 403文字


 旅の途中、人間の王が獅子と出会った。

「所詮、獣の王であろう。お前の強さはなんだ、爪で引っかき歯で()むことか。その程度、我が妻ので馴れておるわい。惰弱者めが。一勝負とゆくか」

 従者の喇叭(らっぱ)を合図に、人間の王は獅子を襲った。剣で(たてがみ)を切り裂き、盾で鼻面を潰す。
 獅子はこれはまらないと、(たちま)ち逃げ出した。

 王は得意満面の笑みを浮かべる。
 従者が、その背を刺した。

 小刀には痺れ薬が塗られていて、途端に王の動きは鈍くなる。
 従者は王冠を奪い、豪勢なマントに火を点けた。

 王は決死の思いで立ち上がり、火を消そうと沼に飛び込んだが、そこは底なし沼だった。

 溺れながら王が言うには、
「剣一本で獅子を退ける者が、小姓一人に殺されるなんて。情けない」

 小姓が答えた。
「所詮、獅子と同類、暴力に頼るほかないのでしょう? 絶対的な強者なんていませんよ」

 旧き王は(たお)れ、新しき王が生まれる。
 夏の終わりと、冬の始まりの出来事だった。
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