249. お前はもう善いことなんぞ、しなくてよいぞ!
文字数 682文字
家事好き妖精・ブラウニーが不平を垂れた。
「要は、フリーライダーだよね。僕が毎晩必死に皿洗い、掃除、整理整頓、粉ひきをしているのに、家人は一杯のミルクさえ寄越さない。僕がそういう存在だからといって、有難 がらない理由になるわけ? 感謝されたくてしているわけじゃないけど、どことなく不愉快だよ」
夢見る作家が問う。
「やめればいい。責任を感じる理由があるのかい?」
「ないさ。だけど、そうやって生きてきた。善い小人、善き隣人、善い家事手伝いってね。今さら、他の道なんて想像できない」
作家は少し考え込んだ後、真面目に言った。
「手に職をつければいい。物語なんてどうだい? 得意分野だろう?」
「それは、まあ」
「文法なら教えられる。一つ、語り聞かせてくれないか?」
ブラウニーは一つと言わずいくらでもと、茶色いまき毛を揺らした。
農家は朝になっても家事が終わっていないと嘆く。
誰かがマントを投げたに違いない。
しぶしぶと、いままでブラウニーに押しつけていた重労働を、自分の手で始めた。
作家は夢の中で、妖精の物語を知った。
文字に起こし、人間の二面性……善と悪のダンスを巧みに躍らせた二重人格物語は、彼の代表作として後世まで語り継がれる。
それ、フリーライダーじゃない? そう尋ねる妖精の声は聞こえない。
人間に裏切られ、忘れられ、ブラウニーは幸の原マグ・メルに帰還する。
その心はさっぱりとしていた。
「これで人と関わらずに生きていける!」
ヒースの花畑、蜜の河、雪化粧の頂に囲まれ、ブラウニーは駆け出す。
「僕はもう、善き隣人じゃないぞ!」
そして、二度と、帰ってこなかった。
「要は、フリーライダーだよね。僕が毎晩必死に皿洗い、掃除、整理整頓、粉ひきをしているのに、家人は一杯のミルクさえ寄越さない。僕がそういう存在だからといって、
夢見る作家が問う。
「やめればいい。責任を感じる理由があるのかい?」
「ないさ。だけど、そうやって生きてきた。善い小人、善き隣人、善い家事手伝いってね。今さら、他の道なんて想像できない」
作家は少し考え込んだ後、真面目に言った。
「手に職をつければいい。物語なんてどうだい? 得意分野だろう?」
「それは、まあ」
「文法なら教えられる。一つ、語り聞かせてくれないか?」
ブラウニーは一つと言わずいくらでもと、茶色いまき毛を揺らした。
農家は朝になっても家事が終わっていないと嘆く。
誰かがマントを投げたに違いない。
しぶしぶと、いままでブラウニーに押しつけていた重労働を、自分の手で始めた。
作家は夢の中で、妖精の物語を知った。
文字に起こし、人間の二面性……善と悪のダンスを巧みに躍らせた二重人格物語は、彼の代表作として後世まで語り継がれる。
それ、フリーライダーじゃない? そう尋ねる妖精の声は聞こえない。
人間に裏切られ、忘れられ、ブラウニーは幸の原マグ・メルに帰還する。
その心はさっぱりとしていた。
「これで人と関わらずに生きていける!」
ヒースの花畑、蜜の河、雪化粧の頂に囲まれ、ブラウニーは駆け出す。
「僕はもう、善き隣人じゃないぞ!」
そして、二度と、帰ってこなかった。