142. 選ぶ① 孤独

文字数 515文字

 葡萄と野鼠どちらが(うま)いか、自由と引き換えに飼われるか、人類との共存は可能か、狐は今後について考え始めた。

 自動車が通りかかった為、慌てて藪に飛び込んだ。

 ハープを習うかフィドルか、明日の狩りは挟み撃ちか不意打ちか、狐は選択を悩み始めた。

 電話がかかってきた為、渋々スマートフォンを手に取った。

 どんな生き方を望んでいるのだろう、狐は自分を見つめ始めた。

 SNSやメールの通知音が(やかま)しくて、いら立ちが加速した。

 狐は考えていた。

 ソーシャルゲームの期間限定ボーナスが終わらず、ミーティングの資料集めにインターネットをさまよい、休日も夜間も関係なく家でも出来るからと仕事を振られ、可哀想な子の為に寄付を、家族の為に旅行を、将来の為に自習を、社会のあらゆる方向からあれしろこれしろと指図が飛んできた。

「考えさせろや!」

 狐はぶち切れて、スマートフォンを投げ捨てた。
 関係各位に「この一週間、俺は俺の為だけに使います」と一報し、狐は自分の意志で孤独を作った。

 今後の身の振り方について、時間をかけてたっぷりと考える。
 古典を読み、本質を探り、自分を知った。

 僕が一番大事なことはなんだろう?

 それだけを考え続けた。

 静寂が揺蕩(たゆた)っていた。
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