217. 装飾① 20世紀初頭におすすめな探鳥地

文字数 673文字

 海に来てナンパに明け暮れるナイスガイのように、ニューヨークの繁華街に来たバードウォッチャーは、ご婦人ばかりチェックしていた。

 その数、700を超える。

 赤道直下ニューギニア。
 カリブ海トリニダード。
 南大西洋フォークランド諸島。

 世界中から集まった彼らに、バードウォッチャーは同情を隠さない。

 極楽鳥のオスが襟飾りを蝶ネクタイのように広げたり、獅子のたてがみみたいに膨らませたり、黒い羽を膨らませてフラダンスしたり、メスに熱心にアピールする理由もそこにある。

 精子を注げれば子孫が増えるオスと違い、メスの産める数は限られる。
 価値観も金銭感覚も安定性も仕事も見た目も性格も愛情もすべてが魅力的でなければ、オスとは呼ばれない。

 激しい選り好みはファッションに波及し、鳥類は虐殺された。

 帽子が必需品で、婦人帽に粋な羽を立て、春夏秋冬気分に応じて種類を変える、それが当たり前だった20世紀初頭、バードウォッチャーは演説する。

「鳥たちの死骸が女性の頭を彩っている」

 第一次世界大戦を経て、女性のファッションに実用性が求められ、羽産業は終息した。

 取ってつけた教訓。
 鳥の為に、ダウンを脱ごう!

 教訓への突っ込み。
 鳥の言葉をヒトはまだ解読できていないから、正確には「気に入った鳥が空を舞う主観的日常を贔屓する一部のヒトの為に、ダウンを脱ごう!」が正しい。

 保全だなんだって、詰まる所、ヒトの為でしょ?
 ヒトのメスの為にサギを絶滅させかけた羽猟師と、本質的に何が違うの?

 ヒト社会のあらゆる活動は、すべてヒトの利益を語る。

 ヒトだもん。
 当然じゃない。
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