89. 学習の数式

文字数 960文字


 -d(y - y[θ])^2 / dθ

 ※傾き。dθ移動した際、最善解に向かっていれば正
  dθを更新し続ければ、最善が得られる。YouTubeユーザーの予想視聴時間など

 山があった。
 生きのいい車が一台、山を登っていた。

「ふっ、フー! 頂上だぜ! 通り過ぎちまったぜ! オレは戻るぜぇ、いえっへぇーい!」

 また通り過ぎた。引き返して、通り過ぎた。引き返す。
 頂上までの距離は徐々に縮み、やっと車は頂上でブレーキを踏んだ。

「いい景色だぜ……」

 車は別の山に挑戦した。
 障害物が多く、でこぼこ道だ。単純な速度より、ハンドル操作が物を言う。
 頂上から行き過ぎて、また登って、引き返して、頂上を目指す。

 ワイパーで砂埃を拭う。眼下の街並みは、ちっぽけな車ばかり走り回っていた。開けた青空は明るく、太陽までの道のりが目に浮かぶようだ。

「格別だぜ!」

 ぐだぐだとYouTubeを観ていると、芙蓉峰(ふようほう)弾丸ドライブ企画を見つける。主催者は憧れの車種だった。外車だ。
 車は決めた。次の頂上は、ここだぜ。

 馬力が足りない。落石を弾く耐久力がない。酸素不足、エンジンが凍りつく。
 急勾配にひっくり返る。
 崖の下で、車はぐしゃりと潰れた。

「オレ、才能ねぇな」

 修理工場の空は、いつも灰色の雲に覆われていた。見渡しても車、コンクリート、たまに街路樹。以前頂上で見た青空が懐かしい。
「どうして走ってたんだっけ?」
 どんなに思い悩んでも、排気ガスは出てこない。

 山があった。
 ぴかぴかの車が一台、山を登っていた。

「フゥフフー! 頂上だぜ! 飛ばし過ぎたぜ! もちろんまだまだ上を目指すぜぇ、フィフー!」

 車に悔いはなかった。
 挑戦しなければ、目指す山の形を知れなかった。自分の限界を知れなかった。
 外車には感謝していた。

 頂上から眺める芙蓉峰は、遙か遠く、高く、美しかった。

「オレはオレの山を登るぜ。疲れたら頂上を楽しむぜ。最高峰だからって、偉いわけでもねぇだろ? もちろんすげぇけどよ、高いだけさ。気軽さから考えれば、最善じゃねぇ」

 車はライトを点滅する。サイドミラーをはためかせる。

「もちょっと待ってな! いずれ辿り着くからよ!」

 頂上の景色を十全に楽しんでから、また別の山へ、車は挑戦を続けた。
 最善を繰り返して、少しずつ高度を上げていった。
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