243. 「猫の顔なしの、チーズだけ」「チーズなしの、猫の顔だけ」
文字数 519文字
急に出たり入ったりしたら飛び上がって心臓が飛び出て幹に激突して四散するから止めてとお願いしたら、猫はゆっくりと消えてくれた。
尻尾、胴体、首、耳、髭、顔の輪郭。
最後に残ったのは、チェシャ猫のようなにやにや笑いだけだ。
「猫なしの、にやにや笑いだけ」
珍しかったから、他にも探してみる。
「猫なしの、絡み合う尻尾だけ」
キルケニー猫は互いを憎み過ぎて、尻尾以外、喰い合って虚空に飛ばしてしまった。
「人道なしの、ヒトだけ」
よく見る。
「ヒトなしの、人道だけ」
これもよく見る。
「地球なしの、ヒトだけ」
最悪。
「ヒトなしの、地球だけ」
地球の歴史を365日に置き換えれば、364日と23時間57分くらい。
「希望なしの、未来だけ」
つらい。
「未来なしの、希望だけ」
ひどい。
「AIなしの、ヒトだけ」
遠い過去か。
「ヒトなしの、AIだけ」
近い未来か。
「雲なしの、空だけ」
物足らない。
「空なしの、雲だけ」
濃霧から出られない日々なんて。
あっちこっちと分類すれば何か出来たような気がするけれど、特段、何か出来たわけではない。
なぜ、猫の顔とチーズを分けるの?
混ぜ合わそう。
カオスを愛そう。
ヒトはAかBか悩み続け、チェシャ猫はにやにやと笑う。