210. 人新世の火事

文字数 592文字

 気候は変わっていく。
 現在は終着点でなく、変化の最中に過ぎない。
 いままで通りを望んでも、そのいままで通りが、絶対的だった時代はない。

 耐火に優れた燃えやすい外来種が火事を強め、火事に弱い在来種を焼き尽くす。

 ユーカリの大農園。
 飼料のガンバグラス。
 カーペット状に広がるチートグラス。

 人為起源の気候変動が拍車をかけ、過去数百年とは異なる火事風景を生み出す。

 それは悪いことなの?

 焼畑農業で生きる人たち。
 草原は火で生態系が保たれている。
 資本主義者が快適な生活を求めて森を焼き払う。

 その炎はどんな炎?

 ある地域の火事と、別の地域の火事は意味が違う。
 植生、気候、広域地形。
 人為性。

 その地域の火事の原因を知らず、歴史を知らず、未来を知らず――火事とどう付き合うか、燃える惑星でどう生きたいか、死にたいかを知らず、何を選べるの?

 人新世(じんしんせい)を問い続ける。
 学び続ける。

 願う未来のために。

 ――放射熱のじりじりは嫌じゃなかった。けれど、本当に欲しかったのは、伝導熱のぬくぬくで、独りじゃないって思えるあなたの熱だった。

 伸ばされた手に鼻先を摺り寄せる。
 懐かしい匂い。

 安らかな温もりに包まれて、冷たい涙が熱くて、赦せなくとも、憎しみが魂にこびりついても、それでも、最期に静かに眠れたから、最悪でも悪くなかったって、少しだけ思った。

「くぅーん……」

 人間なんて、大嫌いだったよ。
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