200. クジラに飲みこまれたら

文字数 468文字

 豪華客船のクルーズ旅行を楽しんでいた頃、夜、彼女は誰かに突き落とされた。
 黒い水に飲みこまれる。

 若くカワイイ男が寄ってきて、精一杯に告白する。あなた無しでは生きていけない。
 虚栄心が満ち満ちて笑う。

 結婚一周年だというのに、夫は帰ってこない。結婚前はあれほど贈り物を爆撃してきたのに。
 若い女とよろしくしているのか。

 友人夫婦が用事でクルーズ旅行に行けなくなった。私達にお鉢が回ってくるなんて、なんて幸運!
 その日は仕事と夫はすげなく言った。

 誠実な瞳が私だけを見つめている。恥ずかしげもなく花束を差し出す豪胆さ、自信に満ちた表情が男らしい。
 周りの羨望で全身がぞくぞくする。

 大半のクジラの主食はプランクトンで、その喉は十数センチ、飲みこまれたら胃まで届かないという。
 どんな因果でクジラに飲まれるのよ。

 そんなわけで彼女はクジラの餌食となった。
 マッコウクジラの第一の胃に押し潰された上、メタンガスに包まれて窒息死した。

 何が、誰が悪だったのだろう?

 少なくともクジラは無実だ。夕食を食べただけだもの。

 まずそう。
 かわいそう。
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