79. 藤の雨

文字数 400文字


 藤棚から藤の花房が垂れ下がる。
 満開の花々は雨風に揺れ、波打つ姿は穏やかな水面のようだった。

 雨が青紫色を溶かし、景色を高貴に染め上げる。
 羽休めの小鳥は羽繕(はづくろ)いを忘れ、逃走中の猫は思わず魚を取り落とした。

 藤の雨がぼやく。
「僕は小雨なのに、変に評価されちゃったな」

 藤が答える。
「運も実力の内だよ。君は小雨じゃなくて、立派な藤の雨さ」

 藤の雨がさらに言うには、
「時運がすべてじゃないか。菜種梅雨も鬼洗いもそうだ。凝結過程、雨粒半径、氷晶有無、密度頻度降水量、なんら関係ない! 君さえいれば、僕は何者でも藤の雨なんだ!」

「この時期の雨であれば、その辺は大体同じじゃないの?」
「だとしても、僕は僕だよ」

 藤の雨は嘆いた
「僕の実力は、つまるところ、藤の有無でしか評価されない。実力は運の内ってことか」

 運に恵まれただけ良い。藤の花が枯れた後の雨は、ただの小雨だ。
 他者の評価を第一に考えるなら、そうなる。
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