236. 没落は一夜にして:1694年

文字数 477文字

 3年後、地主は死んだ。
 空を憎み、海を呪い、浮浪者のように襤褸を纏いて絶命したに違いない。

 河口を囲むように半島が突き出ている。
 南西の海岸沿いには砂丘が並び、その風下の土地では豊かな実りを迎えていた。

 大麦の収穫が間に合わない。
 農夫は刈り入れを急ぐ。

 11月1日、猛烈な北西風が30時間以上続く。
 暴風と高波が砂丘を襲った。

 バケツをひっくり返したように、砂が降る。
 鼻や口に砂が吹き込み、呼吸が詰まり、じゃりじゃり砂を舐める。

 農夫は逃走した。
 砂丘が歩き出し、執拗に農夫を追う。
 河川が堰き止められ、溢れた水に身動きが取れない。

 河川が新たな流路を見つけると、村一つ、そのまま流していった。

 20~30平方キロメートルの農地は、高さ30メートルの砂に埋もれた。
 地主の大邸宅も例外ではない。

 豊かな土地は、一夜にして不毛の砂地に変わった。
 200年以上、変わりなかった。

 誰かが言った。

「理不尽なんだ。理不尽なんだよ。けれど、それで折れるかは、それだけはきっと決められる。未来を諦めれば死だ。死ねばいい。誰も責めない。憐れむだけだ、理不尽って」
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