131. 火打箱
文字数 489文字
貧乏な兵隊さんが、火打箱から道具を取り出し、火花を散らしました。
目玉が茶碗ほどある犬が飛び出します。
「なんだい、旦那様」
兵隊さんに恭しく頭を下げます。まるで従僕か家来です。
兵隊さんは命令しました。
「少しばかり、金をとってきてくれ」
「給金をよこせ。先払いだ」
犬はじりじりと兵隊さんに寄ります。兵隊さんは怯えながらも、威厳を保とうと必死です。
「とってきた金から都合しなよ」
「金属のトリュフも木の死骸の削り節も要らないよ。欲しいのは真心さ」
「真心で腹が膨れるか。いくらでもドッグフード買っていいから、な、頼むよ?」
犬は一蹴します。
「新鮮な生肉以上の飯があるか」
「昨今のドッグフードの進歩を侮らないほうがいい」
かくして、ドッグフードを巡る二人の旅が始まりました。
どのドッグフードも合いません。
それみたことかと鼻息を荒くする犬に、兵隊さんは我慢できませんでした。
兵隊さんは、転職しました。
火打箱印のドッグフードは、大ヒットしました。
某国の犬好きのお姫様の目にとまり、それが縁で二人は結婚しました。
かりかりとドッグフードを噛みながら、犬が言うには、
「あぁ、うめぇ」