136. 皇帝の新しい着物

文字数 486文字

 天下随一の機織り職人は、雨の軌跡・涼やかな糸、風の軌跡・爽やかな糸を織って、虹の着物を仕立てました。

 正直者の大臣が、その出来栄えに唸ります。
「見事、見事。うぅむ、まったくもって見事であるのぉ!」

 機織り職人は、時の流れに漂う銀の糸、雲間から差し込む金の糸を織って、星の着物を仕立てました。

 洒落者(しゃれもの)の皇帝が、その美しさに感嘆します。
「素晴らしい! 気に入ったぞ! 特に、この、この……、この柄! 色合い!」

 神の御遣(みつか)いは、思い遣りと強さを()った善い糸、天国に咲き誇る魂の糸を織って、正しい着物を仕立てました。

 皇帝は正しい着物を身に(まと)い、行列を伴って町を歩きます。

 子どもが指を差しました。

「素っ裸じゃないか!」

 指摘がさざ波のように群衆に広がります。
 皇帝は顔を真っ赤にして、その事実を受け入れ、御遣いを牢屋にぶち込みました。

 御遣いが天井をすり抜け、天上に昇りながら言うには、

「人には早すぎたようだ。神の御許(みもと)に辿り着くには、あと何年、何十年、遺伝子の突然変異が必要なのだろう?」

 突然変異は、科学によって指数関数的に速度を増した。
 御許までの距離は、未だ測られない。
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