212. 進化② 獣脚類恐竜起源説

文字数 965文字

 ミソサザイが野蛮な恐竜と同列視されては屈辱と、裁判を起こした。

「わたしは恐竜じゃない!」

 長くほつれた鱗から風切羽が生まれた。飛ぶために羽は進化し、鳥類となる。
 空気力学が我らを育てた。

 コウテイペンギンが憤慨し、反論する。
 翼なら、皮でも作れる。僕はコウモリじゃない。飛ぶだけが羽と思っているのか。

「皮膚から羽嚢(うのう)が生まれ、中空の羽柄(はがら)だけが生えた。羽柄が枝分かれを覚え、羽枝(うし)という概念が生じる。羽枝一本一本がさらに枝分かれし、断熱効果の高い綿羽、繁殖羽として優美な半綿羽、枝分かれが一層複雑化すれば、正羽、風切羽と発展していく。

 南極の冬に抱卵するのが、どれだけ過酷か知らないの?」

 明瞭な根拠を示せ!
 エビデンスベースドの時代に、政治も教育も思い込みだけで正しさを決めるな!

 ワシに一杯食わせたその知恵で、ミソサザイは獣脚類恐竜起源説を罵る。

 恐竜でない前提で生きているくせに。
 ペンギンはイラついたが、ミソサザイを科学者と信じ、中国語の勉強を始めた。

 羽の発生仮説で示された五段階、それぞれの羽を有した獣脚類化石を求め、義県累層に通う。
 全五段階の化石が発掘された。

 これが羽の歴史とペンギンは意気込むが、ミソサザイが葉巻を吹かしながら言うには、

「その化石、始祖鳥より古いじゃん。始祖鳥から羽毛が進歩したわけ?」

 チワワが吠える。

「いまアタシが火山灰で埋もれ、数千年後に狼が火山灰で埋もれたとして、一億年後の古生物学者がチワワから狼に進化したと勘違いすると思う?」

 その後、始祖鳥より古い羽毛恐竜が発掘され、次こそ羽の歴史は完成した。

「なるほどね。そいつらは元々鳥だったのさ」

 恐竜じゃない。
 だから、鳥は恐竜じゃない。

 カルト信者が信仰を捨てたがらない理由の一つに、もしそれを誤りと認めたら、無駄な半生と烙印を押すことになるから、というのがあるらしい。
 命を注いだ研究が無意味と断じられるのは、誰だって苦しい。

 ペンギンとチワワはミソサザイに別れを告げた。

「君は鳥が恐竜でない、平らな地球に生きなよ。僕らは鳥が恐竜で、丸い地球で生きるから」

 ミソサザイは山地で歌い、コウテイペンギンは南極の海を泳ぐ。
 チワワは街中を歩いた。

 関わらなければ、最後まで平和だったのに。

 裁判は終わらない。
 同じ場所を同じように見たがる限り。
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