94. 換喩

文字数 492文字


 狐は逃げていた。蹴りを緩める余裕はなかった。
「レーザーガンが近づいてくる、レーザーガンが近づいてくる!」
 命懸けだった。

 (きこり)を見つけたので、(かくま)って欲しいと懇願する。樵は仏顔で頷き、近くの小屋を紹介した。
 狐はすぐさま飛び込んだ。

 レーザーガンと樵が出会う。
「狐を見なかったか?」
狡賢(ずるがしこ)くて黄色い尻尾なら、ええ、見ましたとも」

 ぎゅるぎゅるぎゅるぎゅる!
 樵は電動チェーンソーを稼働させて、今夜のシチューはお肉たっぷりと表情を綻ばせた。

「尻尾ぉ? 俺が捜しているのは、狐だ! 頭大丈夫か?」

「いえ、はい。だから、取れない葡萄を酸っぱいと言い張る口なら、見ましたとも」
「口ぃ? 口がてくてく俺から逃げるとでも?」

「へえ、なんていうか。嫁入り前の日照り雨なら……」
「雨ぇ? 快晴じゃねぇか!」

 レーザーガンは樵を罵り、森の奥に狐を捜しに行った。樵がそろりと小屋を覗けば、もぬけの殻だ。
 チェーンソーを止めて彼が言うには、

「レトリックなんて嫌いだ」

 しかし、樵は止められなかった。
 裸の王様を前に、「裸だ!」と正直に答えず、「ひしゃげ乳首!」と万歳した。

 今度は伝わった。
 ああ、よかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み