215. 飛翔① 二者択一

文字数 691文字

 大地と樹々は昔から仲良しだった。
 樹々は大地に根を張り、長身を支えてもらう。樹々の根が表土を維持し、大地は風化から護られた。

 飛翔が両者を分断する。
 空に羽が進軍したのは、果たしてどちらからか。

「地上からだ。
 二足歩行者が地上を駆け回り、ジャンプして、羽ばたく。空中のうまい虫をパクリだ」

「樹上からだ。
 重力ほど安価なエネルギーが他にある? アリ、コウモリ、ウォレストビカエルの飛翔を見なよ」

「樹上なら膜で十分じゃない。なぜ、羽嚢(うのう)で、螺旋状の成長なの?」

「地上で飛べない翼がなんの役に立つ。一夜で前肢が羽根に換わったわけ?」

 創始者の名誉を求めて、論争は激化する。
 歴史に名を残し、後世にわたって記録や遺伝子に留まったとして、死は死だ。

 100年後もガキたちが俺について勉強してる俺偉大かっこいいいえいやっふぃりゅーと考える脳は、死後存在しない。

 死者に未来はない。
 生者に生きる死者は、虚像に過ぎない。

 いま為せ。

 進化の秘密をいま知りたくて、科学者はニワトリの雛に尋ねた。
 どうして未発達の羽が必要なの?

「傾斜駆け上がるの、大変なんだもん! 地上に居たら食べられちゃうかもだし、高いとこがいいよ。羽ばたきながら走るんだ! 勾配90°でもへっちゃらさ!」

 大地と樹々が視線をかわす。

「飛べない翼で地上から高所に羽ばたき走り……」
「高所、例えば樹上から、地上に戻ろうと羽ばたいた……」

 両者の意見が一致し、樹々は大地に根を張り、大地は根にぬくぬくと護られる。
 コンビ復活だ。

 地上か樹上か。
 世界か恋人か、上の息子を見殺すか下の息子を見殺すか。

 二者択一は、物語の罪の一つだろう。
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