66. 赤方偏移、あるいは遠くない未来の光景

文字数 282文字


 誰も隣にいない。
 群れて身を守る必要はなくなったから。
 人工知能さえあれば、食糧も気候も友情も補えたから。

 わたし達はわかり合う努力を放棄し、離れ離れを選んだ。
 それぞれが、それぞれの恒星に立っている。

 恒星の光のスペクトルに表れた吸収線は、予想とは位置が違った。
 赤方偏移……私たちは、離れている。

 遠くの恒星ほどその速度は速い。
 互いが互いから遠ざかっている。宇宙は膨張し、完全な孤独を目指している。
 いずれ互いの光さえ届かなくなるだろう。

 それが宇宙の法則。
 科学が示した、確固たる私たちの未来。

 それでも一緒にいたいのなら、命懸けで抗わなければならない。
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