245. 究極に至る螺旋階段
文字数 911文字
勝利の塔を昇る巡礼者の影には、幻獣ア・バオ・ア・クゥーが潜む。
青みを帯びた内なる光の何かだ。
「若くないし、肉体的魅力だって乏しい……そうでしょう?」
「さあ」
「でも彼は、上っ面より知性の光を愛する紳士。黄金の髪やほっそりした腰には惑わされない。そう言ってくれるの? 優しいのね」
「いや別に」
巡礼者が螺旋階段に足を踏み入れると、幻獣は目を覚ます。
巡礼者の踵に貼り付き、巡礼者に従い螺旋階段を登る……一と離れず、不透明な瞳で巡礼者を観察する。
「以前職場に訪れた金髪の女性、あの人は親戚よ。恋人じゃない」
「知らないから。直接本人に――」
「まあそう! やっぱり、そうなのね! 心を見通す幻獣の
「僕にそんな力ないよ」
最上段が近づくにつれ、幻獣は色合いを増す。
形は完全を取り戻し、光は輝きを増し、究極の姿に変貌する。
「彼は私を愛している。そうなの、見せてくれれば……そんな雰囲気、作らなかったものね。仕事仕事ばかりで……」
「へえ」
「その目が愛を語っている、そういうこと? 幻獣に知らないことはない?」
「そーそー」
かつて最上段まで辿り着いた巡礼者は、ただ一人。
究極に至らなかった幻獣は、形や光が再び衰え、身体は三度やつれ、最下段まで転がり落ちる。
「ありがとう! 私、頑張ってみるわ! 次来るときは彼と一緒ね!」
「勝利の塔をデートコースに組み込まないでよ」
新たな巡礼者の訪れを、伏して待つ。
伝説は続く。
「うそつき! 彼、あの女と結婚するって! 笑って報告してきた――友達の私にって!」
「そうなるよね」
「全部わかってたくせに! 初めからはっきり言ってくれれば、こんなにも傷つかず……惨めさを味わわずに……」
「泣かれても困るよ。ほら、上って上って」
孤独な幻獣が究極を願って地べたを這う伝説より、伝説も究極もなく友人が恋愛相談に通う塔のほうが、好感を持てる。
ありふれた親愛は、究極を超える。
「次の恋は身の丈に合った……手近な……ばったり道角でアイドルと激突して……」
「妄想より足を動かしなよ」
「何か言った?」
「さてね」
物珍しいという理由だけで愛される、哀れな獣が根絶しますように。