198. 「核の冬」に見舞われたら

文字数 862文字

 責任をとって、詳しく説明します。
 責任をとって、引退します。
 責任をとって、死にます。

 時計の針は戻せないのに、その程度で、罪を(あがな)えるとでも?

 お金は戻らず。
 死人は死んだまま。
 病んだ心はその人、周りの人、その一生を苛む。

 根本的に責任をとる方法など存在しないのだから、やったもん勝ち、核を撃ったもん勝ちでしょう。

 小規模な核戦争で運よく生き残ったとしよう。

 成層圏まで舞い上がった煤は数年とどまり、地球の平均気温が数度下がる。
 平均で数度下がるとは、十度下がる一日もある、という意味だ。

 コメは寒さに弱く、生産量が二割以上下がる試算もあるという。
 金を集めて、他国から命の糧を奪わなくちゃ。

 散らばった放射性物質が骨に蓄積し、放射線がDNAをずたぼろに引き裂く。
 白血病、骨ガンのオンパレードだ。

 全面核戦争では真夏の気温が零度を切るらしい。
 14世紀のペストではヨーロッパの約半数が死んだとも聞くが、一割くらい生き残るだろうか。

 責任、とれますか?

 何もするな。
 寝て食べて膝を抱えて思索に耽ろ。

 せめてお前の為に死ぬ存在を少しでも減らせ。

 君が救えたかもしれない命に責任を感じないわけ?
 無為は逃げだ。

 した時としなかった時、救えた命を比較して多い方を選べば?
 功利主義者かよ。

 対象は人間の命だけ?
 その人が生き続けたせいで、喰い尽くされる牛、蛸、樹々はどうカウントするの?
 人間至上主義者め。

 目の前で溺れた子供を救った。
 その子供は将来、ヒトラーとなって、組織的に大量虐殺を実施した。

 目の前で溺れた子供を救った。
 けれど、遠い異国で、ちょっとお金をちゃりんとすれば救えたはずの命は救わなかった。

 目の前で溺れた子供を救わなかった。
 母親は病んでお前を殺し、君の友人が母親を殺し、母親の友人が君の友人を殺す。

 答えのない問いを問い続けることを止め、自信満々な愚者に答えを預けるか。

 そうして、核戦争が始まる。

 疲れた。
 お茶を一杯――搾取された労働力で摘まんだお茶を一杯。

 ああ。

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