108. ザッハートルテ

文字数 514文字


 豚が会議を招集した。
 大御所の豚が、夢でお告げを受けたのだという。

 雌鶏(おんどり)、鳩、羊、雌牛(めうし)、馬、山羊、驢馬(らば)家鴨(あひる)、猫、(からす)、鼠が順々に大納屋に集まる。
 威厳を保つ為に、お抱え菓子職豚に頼む。

「これまで誰も口にしたことのないものを作って欲しい」

 仕上がったのは、チョコレートケーキをチョコレートでコーティングした、甘すぎるトルテだった。
 大喝采。
 職豚のザッハーは、誇らしく鼻を立てた。

 豚と他の動物は団結し、人間を追放する。
 豚たちは、農園の実質的なリーダーとなった。

 ザッハーの次男は経営に苦しみ、菓子店に支援を要請する。支援の傍ら、父の甘すぎるトルテの作り方が漏れ、菓子店が提供を始めた。

 本家は、我が風車小屋ホテルだ。
 レシピを返せ。
 甘い戦争は七年に及び、詰まるところ、いい感じに収まった。

 豚がワインを(たしな)む。
 人間と協力する。
 雌鶏、鳩、羊、雌牛、馬、山羊、驢馬、家鴨、猫、鴉、鼠を工業製品として扱い、かつて人間がそうしてきたように、いまそうしているように、彼らを奴隷とした。

 詰まるところ、いい感じに収まらなかった。

 甘すぎるからといって、無理に無糖のホイップクリームを添えなくとも良い。
 甘くない戦争より、ずっと良い。
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