84. スキルの数式

文字数 505文字


 P(S[t+1]S[t] = P(S[t+1]S[t], S[t-1], S[t-2], …, S[1])

 ※S[t] :時刻tにおける世界の状態
  P(S[t+1]|S[t]) :時刻tにおける状態を仮定した場合、時刻t+1における状態となる確率

 サンクコストがマルコフ性の仮定に不満を述べた。

(はえ)が過去、蜂蜜(はちみつ)の海に飛び込んで(おぼ)れかけたからといって、いま飛び込まない理由にはならない。(はね)(ひた)すと危険だって、もう知ってるからね。
 慎重に近づけばいいだけだ。

 なるほど正しい。君にとって、過去はすべてボクなわけだ。

 だけど、ボクを忘れられないのが、人情だろう?
 君はボクを軽視している!」

 マルコフ性の仮定は嘆息する。
「君を排除するのが、僕の仕事だからね」
「横暴だ!」
「僕たちは神様じゃないんだ。君まで考えていたら、現実を近似できない」

 サンクコストが地団駄を踏む。玩具(おもちゃ)強請(ねだ)る子どもみたいに、地面を転がりわちゃわちゃ叫ぶ。無価値じゃない、仲間に入れろ、ボクは存在するんだ!

 マルコフ性の仮定はくたびれて、
愛嬌(あいきょう)ある毒ほど、はた迷惑なことはない。逃げよう」

 追いかけっこが始まる。終わらない。サンクコストはしつこく、マルコフ性の仮定は譲らない。

 私たちが私たちである限り、走り続ける。
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