216. 飛翔② 未達の夢

文字数 580文字

 空飛ぶ鳥を熱心に見つめる。

「翼だな」

 抜け落ちた羽を集め、接着剤で腕にくっつけ、橋桁(はしげた)から飛び降りた。

 重傷を負った。
 足を骨折した。
 怪我をしてそのまま死んだ。
 即死。
 見物人に罵倒され殴られ剥ぎ取られ裸で帰った。

 帆翔するカモメ、ワシの翼の動きを実に熱心に見つめる。

「旋回時に翼の先端をひねっている。いつも横傾斜でバランスを失っていたが、たわめば良かったのか」

 たわみ翼が発明され、はじめて人類は飛行に成功した。
 航空機の形状は完成し、細かな技術革新が続くばかりで、もう誰も空を見上げない。

 ヒトは鳥を超越した。

 高速カメラで空飛ぶ鳥のすべてを熱心に記録する。

「翼の先端を広げ、風切羽一枚一枚にできた隙間が気流を操る。雨覆羽(あまおおいばね)を立て、乱流を減らしているのか? 翼を伸ばし、曲げ、広げ、すぼめ、捻り……航空機の翼型の棒に比べ、なんて自由に空を飛ぶのだろう!」

 フクロウのように静穏に飛べれば、騒音対策になる?
 乱流と抗力を減らせば、燃費が改善する?

 空飛ぶ鳥を熱心に見つめる。

 イカロスのように人体に羽ばたき飛行機を搭載し、12秒間、ヒトは空を飛んだ。

「飛んだ、飛んだ! ホントに飛んだぞ!」

 2006年、パイロットの言葉だ。

 鳥のように飛びたい。
 大地を駆るように、自分の力で飛びたい。

 子どものような夢に人生を捧げる馬鹿たちが、馬鹿なまま過ごせますように。
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