8-3

文字数 1,040文字

ユーフェイは実体化し、自身のマントを脱ぐとナズナの身体を包み込んだ。そして苦々しそうにリュウシンとジンフーの方を睨み付ける。

『…我の力を使って人のいる場所へ飛ぶ』

ユーフェイの申し出にジンフーがおや、と片眉を上げた。

「では、このまま帝国へ?」

『我の魔力も不完全な上、花嫁がこのような状態では無理だ。
 花嫁と契約している他の精霊達の力を借りれば不可能ではないかもしれぬが…彼らの協力は難しいだろう。
 今の我の力で飛べるとしても、精々元いた大陸か中央大陸エドニス、それか南大陸フェルドースのいずれかだ』

彼の表情を見るに嘘は言っていないように見える。元いた大陸や、ジンフー達にとって未知の南大陸フェルドースへ行くよりは中央大陸エドニスへ飛んでもらった方がましだろう。
確か中央大陸の東側…つまり、各種族の自治領の何処かには東大陸との連絡船が出ていたはずだ。
それならば神の花嫁であるナズナにこれ以上無理をさせずに済むだろう。

「…では、中央大陸エドニスへ。ユーフェイ様のお手を煩わすようで申し訳ないのですが…」

『勘違いするな。汝らのためではない。我が花嫁のためだ』

素っ気ない態度のユーフェイにジンフーは苦笑しながら肩を竦める。ユーフェイはナズナの身体を丁重に抱え上げると、彼らに自分の近くへ集まるよう片手を振った。
 ジンフーとリュウシンがユーフェイの近くへ集まったことを確認し、彼はナズナの懐から記憶の欠片のペンダントを探り出して掲げた。
記憶の欠片が淡い翡翠色の輝きを放ち、彼らの姿を無人島から消し去る。無人島にはいつもと変わらない潮騒だけが残された。



 次にナズナが意識を取り戻した時は、温かいベッドの上だった。
痛む頭を押さえながらよろよろと上半身だけを起こす。すると横から水の入ったコップを持つ手が伸びてきた。
驚いて伸びてきた方を見てみると、仏頂面のリュウシンが座っていた。無言でコップを差し出す彼からナズナは恐縮しながら受け取る。もしかして彼はずっとついていてくれたのだろうか。

「あ…ありがとうございます…」

リュウシンからの返事はない。彼はナズナをじっと観察するように見据えている。いつもより視線に棘が感じられないのは、ナズナの体調を気遣っているからだろうか。
水で喉を潤し、ベッドの横にあるサイドテーブルにコップを置く。
 そういえば、とナズナは自身の身体の違和感に気付いた。いつの間にか結われていた髪が解かれ、服はソルーシュが贈ってくれたドレスからゆったりとしたワンピースに変わっている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み