7-10

文字数 1,034文字

彼らの代表者と思われる兵の一人が一歩前へ進み出て、ナズナとユーフェイに訴えた。

「ユーフェイ様、シェンジャ様、我々を置いてどこへ行かれるのですか?」

「私はシェンジャ様なんかじゃない!おかあさまと一緒に、おうちへ帰りたいの!」

 負けじとナズナが言い返すが、代表の兵士は表情を変えない。兵士として最年少のリュウシンのみが、若干の戸惑いを見せ始めていた。
ナズナの感情が昂ぶり、ユーフェイの魔力と彼女自身が本来持っている魔力が膨れ上がりつつある。彼女はまだ幼いため、魔力のコントロールが自身の感情に左右されてしまう。
 行き場のないナズナの魔力とユーフェイの魔力の暴発を恐れたヒスイが、娘を落ち着かせようと必死に宥める。
おそらくあの建物が燃えている原因はナズナが魔力を暴発させたからだろう。もちろん、彼の魔力も使って。

「落ち着いてナズナ!大丈夫よ、一緒におうちへ帰れるから!」

「いいや、そうはさせませんぞ。我らが神の花嫁となったシェンジャ様はあと十年、この国に留まって頂かなくてはなりません」

兵士の代表がさらに追い打ちを掛けてくる。そのせいで落ち着きかけていたナズナの感情がさらに爆発した。

「もういやあああ!!」

 今度は暴発することなく、ナズナの感情に応えてユーフェイが魔法を発動させた。
ナズナが拒んでいる者達へ無数の水の刃が瞬時に形成され、襲い掛かる。ある者はそれに切り裂かれ、ある者は貫かれた。
目の前で繰り広げられる惨劇に、ヒスイは目を見開く。幼いナズナを何としてもここから離れさせなければ。このままではさらに暴走し、被害がどんどん拡大してしまう。
 ヒスイは左手の薬指にはまっている青い宝石のついた指輪からエリゴスを召喚した。

「エリゴス、ナズナを眠らせて!」

『承知した』

契約主の命を受けて、エリゴスが魔法でナズナを眠らせる。そのおかげでユーフェイの魔法も強制的に止まった。辺りを見渡してみると、大半の者がすでに事切れていた。
 生き残った者はリュウシンを始めとする極少数の者のみ。だが、その生き残った者達もただで済んだ訳ではない。
リュウシンの両腕が失われている。彼だけでなく、他の者もどこかしら身体の一部が欠けてしまっていた。
痛みに喘ぎながら、リュウシンがナズナに向かって怒鳴る。

「オマエなんか…シェンジャでも友達でもない!!」

 そこでぶつんと映像が途絶えた。
かつての自分自身がやったことに、ナズナは恐怖で震える。
リュウシンがナズナを憎悪に染まった目を向けてくるのも当然だった。
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