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文字数 944文字

丁度王子も食事を終えたようで、彼はナズナの姿を認めると人好きする笑みを浮かべて彼女を出迎えた。
これまでの練習の成果が発揮出来るよう最大限の努力をしながらナズナは腰を落として宮廷式のお辞儀をする。

「殿下、約束通りダンスを踊る名誉を頂きに参りました」

「お待ちしていました、ビスマルク嬢。それでは参りましょう」

 ナズナの手を取り、王子は彼女をダンスホールの中央へと導いた。彼らが登場すると、タイミングを見計らったかのように音楽が明るい曲調に変わる。
この日までにいろいろな種類のダンスを覚えてきたが、この音楽は運良くナズナが最も得意とするものだった。もしかしたらあらかじめ父かソルーシュが便宜してくれたのかもしれないが。
そのおかげか、たくさんの人に見られてもリラックスして踊ることが出来る。それに王子もまた中々の踊り手でさりげなくナズナをリードしてくれている。
大抵練習相手は神威かエリゴスだったので、何だか新鮮な気持ちで踊ることが出来た。

 席に残されたソルーシュとヴィルヘルムはナズナがうまくやれていることにほっとしてワインを飲み交わしていた。何だかんだいって、彼らも緊張していたのだ。
特にヴィルヘルムは騎士になってから、このような催しに全く参加しなくなった。故に久しぶりに味わうこの独特の雰囲気には全く慣れていない。
仮にこのような催しがあって参加することになっても、大抵は警備として王宮の哨戒にあたるため余計にそう感じたのであった。
 ふとヴィルヘルムはソルーシュの視線が踊るナズナと王子にずっと向けられていることに気が付いた。

「何見ているんだい、ソル?」

「べっつにー」

ふてくされた様子で答えるソルーシュにヴィルヘルムは首を傾げる。

「別にって感じじゃないけど?」

「うるせぇなー。物思いに耽ってるだけだから放っておいてくれよ」

そこまで言われたらそうするしかない。
かと言ってヴィルヘルムもダンスの輪に加わる気などさらさらなかった。あくまで今日の自分はナズナのおまけであるのだから。それに久しぶり過ぎてダンスのステップが全く思い出せない。
別に彼の叔父はダンスのことまでとやかく言っていなかったから無理に参加しなくてもいいだろう。
そういう訳でヴィルヘルムは席から立たずにちびちびとワインに口を付けていた。
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