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文字数 1,024文字

 ジェラルドが宣告した通り、ミッターマイヤー家からジェラルド主催の私的な晩餐会の招待状が届いた。彼は明日だと言っていたが、ヴィルヘルムがビスマルク邸にいるナズナへ報告するよりも早く、何とその日のうちに届いたのである。
封筒に記載されているサインを見てみると、ジェラルドの名前の横に当主であるマティウス=レネ=ミッターマイヤー本人のものも記載されていた。そのおかげでますますあの噂が真実味を帯びてくる。

 豪奢な装飾が施されたミッターマイヤー家からの招待状を眺めながら、ソルーシュは深く溜息を吐いた。

 あの家に赴くということは、すなわちあの姉妹達とも顔を合わせねばならない。
運良く不在だったらいいのだが、悪知恵の働く彼女達のことだ。おそらくナズナのお供としてヴィルヘルムとソルーシュが必ず同行してくることなど予測済みだろう。
気が重いが、これもナズナのためだと自身を奮い立たせてソルーシュは久しぶりの深い紫色をした正装に袖を通していく。
いくら私的な晩餐会と言えど、最低限の身だしなみは必要だ。髪を整え、先に身支度を済ませている幼馴染の騎士とその従妹である貴族令嬢の待つ広間へと急ぐ。

 一応本日が約束の日だ。まだ時間ではないが、ミッターマイヤー家へ向かう前に最後の打ち合わせをするのである。
水色のふんわりとしたドレスを纏ったナズナの横には騎士団の制服を纏うヴィルヘルムが影のように付き従っていた。余談だが騎士団の制服も一応正装と認められている。
ソルーシュが来ると、ナズナの憂い顔がぱっと明るくなりドレスの裾を摘まんで小走りに彼に駆け寄った。

「ソル!」

駆け寄ってくる貴族令嬢に笑顔を返しながらソルーシュはおどけて言った。

「お待たせ致しました、ナズナ姫。オレが用意した本日のドレスもよく似合っておいでです。ビスマルク公は…」

ソルーシュの質問にヴィルヘルムが答える。

「パウラの情報によると、ミッターマイヤー将軍と一緒に東の雪原で魔物討伐の任に当たっているそうだよ」

「お父様…」

 いくら父親が強いといっても心配なのだろう。明るくなったナズナの顔がまた憂い顔に変化した。彼女の父親、そして共に魔物討伐の任に当たっている騎士達のためにナズナは両手を胸の前で組み、無事を祈る。
そんな彼女を横目にヴィルヘルム(正確にはパウラだが)の報告を聞いてソルーシュは安堵した。
ミッターマイヤー将軍…マティウスが不在となれば、当主代行としてジェラルドの兄であるエミールが出迎えるだろう。
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