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文字数 1,102文字

 ソルーシュ達は北の塔にある古びた扉の前に辿り着くと、ソルーシュがその扉をノックした。
中からの返事を待たずに扉を開ける。するとまず、埃っぽい匂いが鼻につきジェラルドがむせた。
そんな彼を見て、部屋の主が面白そうに笑い声を上げる。

『ヒヒヒ、いらっしゃい。君達がここに来ることは学院内に入った時から見ていたよ』

 部屋の主の声は意外と若い男性の声だ。
しかし部屋の中は薄暗く、蝋燭の微かな灯りしかないせいで姿が見えない。
その灯りの横に、大人の頭ぐらいの大きさの水晶玉が丸いテーブルの上に鎮座していた。
よく耳を澄ましてみると、声はここから聞こえてくるようだ。
パウラが魔物の類ではないかと少し身構えたまま、ソルーシュは全く動じることなくその水晶玉に話し掛ける。

「オレが聞きたいことも知ってるはずだ。教えてくれ、タリアン教授。
 オレ達が探しているナズナ=フォン=ビスマルク嬢は今、どこで何をしている?」

 すると水晶玉の中に半透明の端正な男性の顔が突然現れる。
この男性がソルーシュの言うタリアン教授であり、そして人探しの専門家なのだろうか。
端正な男性の顔はソルーシュに目を向けると、まるで猫のように目を細めてニヤニヤ笑う。

『それはこの中にいる誰かの想い人かい?』

「…違う。急いでいるんだ、早く教えてくれ」

ソルーシュの焦れたような声音から切羽詰まっていることが窺えたようで、水晶玉の男性の顔からニヤニヤ笑いが消えた。数秒も経たないうちに、男性が答える。

『君達の尋ね人は今、この大陸の東側にある妖精と精霊の村ローグに滞在しているよ。
 次の記憶の欠片を求めに、かつてこの学院から追放された者が造った研究所へ向かうらしい』

「研究所…?それはどこにあるんだ?」

『ホロウ島の海底さ。君達には絶対に行けない遥か海の底にある。
 だが、彼女は行ける。偽りの神が力を貸しているからね』

 偽りの神、という言葉にジェラルドの耳と尻尾が微かに動く。その様子に片眉を上げつつも、タリアン教授はまるで講義するかのように淡々と続けた。

『だけどその力はまだ、彼女にとって不慣れなものだ。もし彼女を捕まえたければ、獣人族の集落で待ち伏せした方が賢明だと僕は思うね』

そう言ってタリアン教授の顔が消え、彼の言う獣人族の集落の風景が浮かび上がる。そして次に、巨大な魔法陣が描かれた部屋が映った。

『早くそこへ行きたいのなら、この学院内にあるこの部屋を使うといい。普通に歩いて向かったら追いつけないからね。
 あの部屋を使えば、今日一日くらい休む猶予はあるよ。むしろ休んでいった方がいい。
 理由は言わなくても分かるだろうけど、彼女にはおっかない若者二人がついているから』
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