2-13

文字数 1,015文字

答えたのは父でもなく、神威でもなくエリゴスだった。神威と違い、この件に関与していないと思っていたのに。意外な回答者にソルーシュが疑問の声を上げる。

「オイ、何でアンタが知ってんだよ」

 咎めるようなソルーシュの視線をエリゴスは真っ向から無視したが、不思議そうに見上げてくるナズナの視線は無視出来なかった。
何故だ、と言わんばかりに首を傾げるナズナにエリゴスは普段の高慢な態度を潜めて答えてやる。

『元々、その記憶の欠片は一つの珠だった。だが、それを五つの欠片に砕き、世界に隠したのは他でもない、この俺だからだ』

「はあ?何でそんなことを…」

ソルーシュの声に賛同するようにジークも神威も片眉を上げる。これは彼らにとっても初耳の情報だったらしい。
それすらもエリゴスは無視して、今の主であるナズナの前に跪き、真摯な表情で見上げた。

『それもお前がこの欠片を集め、記憶を取り戻せば分かることだ。
 今は俺の口から全てを話すことが出来ぬ。…お前の死んだ母との約定だからな』

 再び出た“母”という言葉にナズナは複雑そうな表情を浮かべた。
一体亡き母は何を思ってこのようなことをエリゴスに頼んだのであろう。だが、死者に思いを馳せても答えてくれる訳ではない。エリゴスがこう言ったからには彼を問い詰めるよりも欠片を探した方がいい。
おそらくエリゴスはナズナの母と何か契約を結んでいた。契約を何より遵守する彼だから、絶対に口を割ることはないだろう。

「…分かりました」

『全てを話すことは出来ぬが、償いとしてお前を導き、盾となって守る所存だ。
 だからどうか、俺を共に連れていって欲しい』

「元よりそのつもりです。一緒に来て下さい、エリゴス」

「…ちょっと待ったぁ!」

 何だかいい雰囲気のエリゴスとナズナの間にソルーシュが無理矢理割り込む。割り込まれたエリゴスは不服そうに眉を顰め、鋭い視線をソルーシュに送り付けた。しかしソルーシュは先程のお返しと言わんばかりにエリゴスの視線を意に介さなかった。

「ナズナ姫、オレも一緒に連れて行って下さい!」

「え…?」

ソルーシュの申し出にナズナは困惑した。いつも世話になってはいるが、これはナズナ自身の問題で、ソルーシュは無関係である。それにナズナはまだ理由こそは分からないが追われる身。
 今回は騎士団がいたので大丈夫だったが、次回はそうはいかないだろう。何の関係もないソルーシュを巻き込んだら申し訳ないと思い、ナズナは断固拒否の姿勢を見せた。
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