12-11

文字数 1,042文字

しまった、と思いナズナは拘束から逃れようと滅茶苦茶に暴れた。だが、ナズナを捕らえている男の腕はびくともしない。彼にとってナズナの力など赤子に等しかった。
 誰かを召喚するか、と悩んだが余計な騒ぎを起こしたくない。どうにかして逃れようと奮闘するものの、面倒に思ったもう一人の男がナズナの鳩尾を容赦なく殴った。

「ちっ…大人しくしていろ!」

 微かな呻き声を上げて、ナズナの気が失われる。
花嫁の身体が傷つけられた水妖族の神が激昂し、彼女の身体をいつかと同じように自身の支配下に置く。
そして魔力を操り、水の魔法を発動させた。
水の刃が花嫁を拘束している男の足元から突き出し、両足の腱を切り裂く。バランスを失い、また激痛により花嫁を拘束していた両腕の力が緩んだ。隙を突いて逃れる。
 もう一人の男は被害に遭う前に魔法を避けていたようで、倒れた仲間とナズナを見比べて囃すように口笛を吹いた。

「へえ…意外とやるな」

存外冷静な男にユーフェイが片眉を上げる。だが構わずに自身の愛用している双剣を召喚し、構えた。

『そこに倒れている無様なお仲間と共に消え失せろ』

 可憐な少女の口から不似合いな低い男の声が発せられて男は目を細めた。
いつの間にか迫っていた双剣の刃が男の短い髪を掠める。赤茶色の髪が数本宙に舞った。
それでも表情を変えることなく、じっとナズナを見据えて値踏みする。途端、男の唇が弧を描く。その瞬間、ユーフェイの目の前から男の姿が闇に融けるように消えた。

『?!』

「実に興味深い。お前の中には、一体何人いるんだ?」

姿は見えないが、声と気配は依然として残っている。
先程両足の腱を切られたもう一人の男の姿も血の跡だけを残して消えていた。
もしかしたら、応援を呼びに逃れたのかもしれない。増援が来たらかなり厄介だが、この目の前の男を消しておかないともっと厄介なことになるかもしれないとユーフェイの直感が警告する。
水の魔法を操り、手当り次第に攻撃するがどれも手ごたえを感じなかった。

『くそ…一体どこに…?!』

 突然足首を掴まれ、ナズナの身体がバランスを崩す。足元は石畳。とてもじゃないが、隠れる場所はない。なのに、石畳から手が生えている。
ナズナが転んだところで手の主…先程の赤茶色の髪の男が姿を現した。
ゆっくりと地面からせり上がってくる様は、まるで神出鬼没な幽霊のようだった。

「捕まえた」

一瞬でナズナの細い首に金属で出来た首輪がつけられる。
その途端、無理矢理ナズナの奥底へ押し込められるような感覚がユーフェイを襲った。
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