10-12
文字数 1,030文字
「だから…いいのです」
そう呟いてナズナは諦めたように笑った。
彼女にそう言われてしまえば、流石のガイアも娘と同じように口を噤むしかない。
もちろん、ナズナにだって夢はあった。
もしもあの舞踏会が何事もなく終わり、自由に外へ出られるようになっていたら。
様々な場所を自分の足で巡り、友人を作り、そしていずれは素敵な恋をして。
そんな当たり前の毎日を送ることが彼女の夢だった。
だが、それでは何も知らないままだった。
水妖族のことも、ユーフェイのことも、そして自分の失われた記憶のことも。
さらに言えば、メルセデスの存在を知らないまま一生を終えることになっていたかもしれない。
そういうことを考えると、これでよかったのだとナズナは思う。
何よりこの道を選んだのは他ならぬ自分自身。だから後悔などしていないと、自分に言い聞かせる。
そんな花嫁の気持ちをユーフェイは言うまでもなく察していた。
彼女の気持ちはユーフェイの心に痛い程響いてくる。しかし、知ったところで花嫁に掛ける言葉を持ち合わせていなかった。
むしろ彼女の未来を奪う張本人であるユーフェイに何が言えるのだろう。
苦い思いを噛みしめながら水妖族の神は目を伏せる。
暗くなりつつある空気を振り払うかのように、努めて明るい声でナズナは話題を変えた。
「そういえば、記憶の欠片は残り二つですよね!一体どこにあるのでしょう?」
今から少し探ってみますね、と言ってナズナは胸元からペンダントを手繰り寄せ、胸の前で祈るように両手を組み、意識を集中させる。
いつかと同じように、まず荒々しい波の音が届いた。
次にざぶんと水の中に入る音がして、視界が海中へと切り替わる。さらに下へ下へと潜っていき、やがて光が届かない海底へと進んで行く。
深くなっていく闇にナズナは少し身震いした。
どのくらい潜ったのかは知らないが、いつの間にか隆起した巨大な岩肌に刻まれた、海底には不釣り合いな神殿らしき入口を発見した。
不思議なことに、その神殿入口周辺だけ透明な薄い膜に覆われている。
この神殿はかつて地上にあったものなのだろうか。それとも、最初から海底に造られたものなのだろうか。
先程ガイアから聞いた海底に眠る図書館もこのような感じでひっそりとそこに在るのだろうか。
さらに意識を集中してみると、海底から一気に浮上し海面へ。
すると目前に大陸か島かは分からないが、切り立った崖に囲まれた陸地が見える。どうやらあの神殿はこの陸地のほぼ真下にあることを示しているようだった。
そう呟いてナズナは諦めたように笑った。
彼女にそう言われてしまえば、流石のガイアも娘と同じように口を噤むしかない。
もちろん、ナズナにだって夢はあった。
もしもあの舞踏会が何事もなく終わり、自由に外へ出られるようになっていたら。
様々な場所を自分の足で巡り、友人を作り、そしていずれは素敵な恋をして。
そんな当たり前の毎日を送ることが彼女の夢だった。
だが、それでは何も知らないままだった。
水妖族のことも、ユーフェイのことも、そして自分の失われた記憶のことも。
さらに言えば、メルセデスの存在を知らないまま一生を終えることになっていたかもしれない。
そういうことを考えると、これでよかったのだとナズナは思う。
何よりこの道を選んだのは他ならぬ自分自身。だから後悔などしていないと、自分に言い聞かせる。
そんな花嫁の気持ちをユーフェイは言うまでもなく察していた。
彼女の気持ちはユーフェイの心に痛い程響いてくる。しかし、知ったところで花嫁に掛ける言葉を持ち合わせていなかった。
むしろ彼女の未来を奪う張本人であるユーフェイに何が言えるのだろう。
苦い思いを噛みしめながら水妖族の神は目を伏せる。
暗くなりつつある空気を振り払うかのように、努めて明るい声でナズナは話題を変えた。
「そういえば、記憶の欠片は残り二つですよね!一体どこにあるのでしょう?」
今から少し探ってみますね、と言ってナズナは胸元からペンダントを手繰り寄せ、胸の前で祈るように両手を組み、意識を集中させる。
いつかと同じように、まず荒々しい波の音が届いた。
次にざぶんと水の中に入る音がして、視界が海中へと切り替わる。さらに下へ下へと潜っていき、やがて光が届かない海底へと進んで行く。
深くなっていく闇にナズナは少し身震いした。
どのくらい潜ったのかは知らないが、いつの間にか隆起した巨大な岩肌に刻まれた、海底には不釣り合いな神殿らしき入口を発見した。
不思議なことに、その神殿入口周辺だけ透明な薄い膜に覆われている。
この神殿はかつて地上にあったものなのだろうか。それとも、最初から海底に造られたものなのだろうか。
先程ガイアから聞いた海底に眠る図書館もこのような感じでひっそりとそこに在るのだろうか。
さらに意識を集中してみると、海底から一気に浮上し海面へ。
すると目前に大陸か島かは分からないが、切り立った崖に囲まれた陸地が見える。どうやらあの神殿はこの陸地のほぼ真下にあることを示しているようだった。