8-16

文字数 780文字

 今、ヴィルヘルム達はブリューテ大陸とエドニス大陸を行き来する商船に乗っている。
ジンフーがポーラル=シュテルンの港へ向かう時言っていた出まかせに可能性を賭けて中央大陸へと向かっているのだ。

 ヴィルヘルムにとって初めての船旅だ。こんな時でなければ初めての船旅を楽しんでいられただろう。
幼馴染の商人や商人の護衛としてついていく騎士団の先輩の話に聞いていた船酔いというものも全く感じられない。船窓から見える景色も悪いものではなかった。

 今頃、ヴィルヘルムの可愛い従妹はどうしているだろうか。手荒に扱われていないといいが。
もう少しで助けられそうだったのに、とヴィルヘルムが悔しそうに唇を噛みしめ、拳を強く握り締める。
同じように拳を握っていたソルーシュが苛立ちを発散するかのように船の壁に叩きつけた。
はあ、と溜息を吐いてジェラルドが注意する。

「船に八つ当たりしても仕方ないだろう」

「…すんません」

 ばつが悪そうに謝罪する幼馴染にジェラルドはそれ以上何も言わない。その代わり彼の肩を軽く叩いた。そのまま用意された船室の方へと歩いて行く。
エドニス大陸に着くまではまだかなりの時間が掛かる。

 ソルーシュはというと、ナズナがリュウシン達に攫われた時からあまり休んでいない。
このままでは肝心な時に動けなくなってしまう。
見兼ねたヴィルヘルムが彼に少しでも休むように促した。

「ソル、とりあえず一旦頭を冷やすつもりで休んできなよ。君がそんなんじゃ、ナズナが心配するし、エリゴス殿に馬鹿にされるよ?」

「…」

「ソル」

反応が返ってこない幼馴染の名を今一度強めに呼んで、ようやく彼はヴィルヘルムの言うことに従った。先に船室へ戻ったジェラルドの後を追い、ハンモックに横になる。
 残されたヴィルヘルムは窓から鉛色の空を見上げた。
従妹の無事と、船が一日でも早くエドニス大陸へ着くことを切に願いながら。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み