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文字数 1,032文字

 ナズナが起き上がって部屋の中を歩き回れるようになるまで二日要した。全快したと思われる日からジンフーにより、リュウシンという目付役を伴ってアルテム村内のみの散歩が認められる。
さっそく失われた体力を取り戻すために、ナズナはジンフーに言われた通りリュウシンを伴ってアルテム村内をぶらぶらと歩いていた。
 エドニス大陸のアルテム村は、ナズナの住んでいたブリューテ大陸のノイシュテルン王国とは違い、雪の降らない温暖な気候である。厚手の上着無しで外を出歩けることがとても新鮮に感じられ、向こうでは見ない植物が芽吹いている。

 ナズナの後からひっそりとついてきているリュウシンはいつもと同じ、眉間に皺が寄った表情だ。ナズナが病床に臥していた時は彼なりに配慮していたのか、しばらく見なかった表情である。
彼の眉間に皺を寄せている表情がナズナにとっては普通だったので、久しぶりで何だかとても懐かしく感じた。この表情の方が彼らしい。

 昼時のアルテム村は子供達の声で賑やかだった。
そんな声を微笑ましく思いながら、ナズナは前から歩いてくる人物の姿を見て足を止める。
真っ黒な短髪に猫のような瞳を輝かせた、この村に住んでいる有翼人種の少年スバル。

 ちなみに有翼人種とは、この中央大陸エドニスにしか生息しない珍しい種族だ。
人間の腕から手に掛けての部分が鳥のような翼と鉤爪のついた手を持ち、下半身は鳥の足になっている。そういった姿のためか、彼らが纏う服装は布を巻いただけの簡素なものだ。
この有翼人種の少年とは、つい先日ナズナの風邪薬を届けて貰った縁で知り合った。
彼は知り合いであるナズナの姿を認めると、嬉しそうに駆け寄ってきた。

「ナズナ!外に出られるようになったんだね!」

喜ぶスバルにつられてナズナの表情も同じようなものになる。

「はい!届けて貰ったお薬のおかげです!」

「そりゃああの薬は俺の友達が煎じているからね。よく効くはずさ。ところで何してんの?」

「体力を戻すために、ちょっとお散歩を…」

 ナズナの答えにスバルはふーんと呟きながら、彼女の後ろで影のように付き従っているリュウシンを見た。
リュウシンの緑の瞳はスバルを鬱陶しいと言わんばかりに睨み付けている。そんな彼に内心肩を竦めながら、有翼人種の少年はナズナの横に並んだ。

「俺も一緒に行っていい?」

もちろん、とナズナが答えようとするより早くリュウシンが被せてくる。

「ダメだ」

彼の言葉にスバルは不満そうに唇を尖らせた。

「何でだよー!別にいいじゃん!」
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