15-19

文字数 1,038文字

「何か考え事かい?」

 ナズナの瞳を通してホムラと視線が重なった気がした。掛けられた言葉も、ナズナではなく水妖族の唯一神に向けられたもののような気がする。
ユーフェイの視線が鋭くなり、威圧感が強くなる。その場にいた使用人が重く圧し掛かる空気に眉を顰めた。
空いた茶器を回収すると、早々に退出する。
少し迷ったが、ユーフェイはナズナの口を介して自ら竜人族の王と対面した。

『…汝には関係ないだろう』

まさかユーフェイが出てくると思わなかったホムラは、表情を変えることなく水妖族の神を見据えていた。

「関係あるとも。貴方が憂えば、私の優しい妃が同じように憂う。
 そんな彼女も可愛らしいが、夫たる私としてはやはり明るい表情の方が好きなのでね」

 歯の浮くような台詞に水妖族の唯一神が盛大に舌打ちした。
ホムラと共に暮らし始めてから、ナズナの明るい表情はほとんど見られなくなった。当然、彼も見ていない。
もし今、彼女を明るい表情に出来るとしたら、魔界の王か短剣の精霊、あるいは大地の精霊の娘くらいなものだろう。

 自分では出来ない。
何故なら自分の存在が、自分と交わした約束が彼女の笑顔を失わせた原因だからだ。
悲願のためには仕方ないことかもしれないが、ユーフェイにはそれが何だか歯がゆく感じた。

『ナズナは我の花嫁だ。勝手に汝の妃にしないでもらおうか』

自分自身、そしてホムラへの苛立ちを隠すことなくユーフェイは断じた。
竜人族の王の目が細められる。険悪な雰囲気にナズナが小さくなった。そんな彼女を気にしながらも、水妖族の神は続ける。

『丁度いい機会だ。我が花嫁の記憶の欠片を返してもらいたい。
 汝が我が花嫁に執着するのは、欠片の中に封じられている記憶と、我の魔力の影響によるものだろう。欠片を汝の右目から取り出せば、我が花嫁への執着も消えるに違いない』

確かにそうかもしれない、とナズナも内心同意する。
記憶の欠片を所持しておかしくなったのは、二番目の欠片を守っていたメルセデスの例がある。この竜人族の王も同じなのでは。
だとしたら、ユーフェイの言う通りナズナに執着するのは欠片の影響によるもので、ホムラ自身の意思ではないはずだ。しかし…。

「一理あるけど、心外だなあ。欠片による影響は、ただのきっかけに過ぎないよ。
 私は私の意思で、彼女を愛するようになったのさ」

あっさりと否定されてしまった。欠片の影響が無いのなら、余計に話が複雑になりそうでナズナは頭を抱える。
ホムラの返答を聞いて、ユーフェイの苛立ちはさらに加速した。
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