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文字数 1,041文字

あの腕輪をはめるとユーフェイをナズナの身体から引き離すことが出来るのだろう。
 そういった魔法もあることはある。ユーフェイ自身、そういった類の魔法は使えないものの、存在だけは知っている。水妖族ではかつてユーフェイに掛けられた呪いがそうだ。今現在で使えるのはおそらくあの皇帝のみである。
過去の皇帝が掛けた呪いの力は強く、また独自の術式のため無理に解こうとした者には必ず悲惨な未来が待ち受けていた。

 ちらり、とユーフェイは自身の腕の中にいる花嫁を見下ろす。
幸いまだ彼女の記憶はその呪いについての記憶を思い出していない。
彼女の記憶の欠片を集めて行けば、必然的にあの日の出来事を思い出すことになるのだが…もしここであの腕輪をはめたことにより皇帝の呪いが発動してしまったら。
彼女の心にさらなる負担が掛かってしまうし、下手をすれば彼女の心が壊れてしまうかもしれない。
ただでさえ、自分の願いで彼女を追い詰めてしまっているというのに。
これ以上追い詰めて彼女の心を傷つけることは何としても避けたかった。

 そう考えたところでユーフェイは自問自答する。

 最終的にこの花嫁はその短い命を散らしてしまうのだから、彼女の心が壊れようが別に問題無い。むしろ心を壊してしまった方が操りやすいという点で、ユーフェイにとって都合がいいはずだ。
なのに何故、自分は彼女の心が離れないように必死になり、そして壊そうとせず守ろうとしているのだろう。
ナズナをかつての自分と重ねているからだろうか、それとも…。

 否、と首を振って余計な考えを振り払う。
とにかく今はこの大地の精霊達から離れなければ。メルセデスの言葉に、ナズナが動揺している。よくない兆候だ。
少々心が痛むが、ユーフェイは大地の精霊の娘を睨み付ける。

『かつて我に掛かっている過去の皇帝の呪縛を解こうと、何人もの術者が挑んだ。
 しかし、何人たりとも解くことが出来なかったのだぞ。あの魔界の王ですらも!』

水妖族の神が出した思わぬ人物に、その場にいる全ての者の目が驚きで見開かれる。

『エリゴス殿が…?!』

ナズナの記憶に彼が関わっていることはすでに知っていたが、そこまで関わっていたとは初耳だった。あの魔界の王は肝心なことは教えず、余計なことを喋り過ぎる。その辺が魔界の王である彼らしいと言えば彼らしいのだが、大事な局面では大きな欠点だ。

 魔界の王が挑んでも無理だった、という事実が当事者であるユーフェイの口から飛び出したことにより、メルセデスの前向きだった心に陰りが生じてきた。
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