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文字数 1,040文字

『精霊の小僧と小娘といえば、お前から引き離されてえらく心配しておったぞ。
 心配し過ぎてうるさ過ぎるくらいだ。無論、俺も心配していたが』

「そ、それは申し訳ありませんでした…」

『本当だぞ、全く』

 まるで娘を心配する父親のようなエリゴスにナズナが顔を綻ばせ、故郷にいる父ジークをほんの少し懐かしく思った。
二人の微笑ましいやり取りに一瞬ユーフェイは面食らったが、魔界の王への警戒を解かぬまま詰問する。

『ここへ来た本当の目的は何だ。我が花嫁の様子を見に来ただけではないだろう?』

そこでようやくエリゴスはユーフェイと真正面に向き合った。彼の背中から生えている竜のような翼を威嚇するように大きく広げ、禍々しい魔力をユーフェイに向けて放ちながら一喝する。

『口の利き方に気をつけろよ、ユーフェイシンジュン。神の力を得て大きくなったつもりだろうが、所詮貴様は紛い物に過ぎん』

 何やら不穏な空気になってきた。このままでは話が進まないと、ナズナが睨み合う二人の間に立って仲裁に入った。

「エリゴス…ユーフェイ、二人ともどうか落ち着いて下さい!」

意外にも矛を下ろしたのはエリゴスの方だった。彼は禍々しい魔力を一気に霧散させると、再び小さな主の方に向き直る。

『ああ、すまなかったな。お前の様子が気になって見に来たというのも本音だが、お前に伝えたいことがあって来たのだ』

「伝えたいこと…ですか?」

『ああ。実はずっと、お前とそこのユーフェイとやらのやり取りや、お前が取り戻した記憶を覗いていた。
 …幼いお前があそこから逃げるために交わした、あの約束もな』

「どうして…?」

『一つの逃げ道を与えておくためだ』

 そこでユーフェイが飛び出そうとすると、彼の両腕が何かに掴まれた。
右腕は病的なまでに細く、そして石膏のように白い手。左腕も同じように石膏のように白い手だが、こちらは指先に鋭い爪が生えており、ゴツゴツしている。
ユーフェイの腕を掴んでいる手の主たちが闇の中から音も無く現れた。

『どうも、エリゴス様の政務補佐のストラっス。その節はどうもー』

 軽い調子で挨拶したのは、細く白い手の持ち主。見た目はユーフェイよりも年下の少年だ。
闇のような黒髪で、紫の丸い瞳が印象的だ。右目はその黒髪で隠しており、頭の上には小さな銀の王冠が鎮座している。服装は黒を基調とした士官服のようなものだ。
ナズナは姿を見てこそは分からなかったが、名乗った名前を聞いてナズナはすぐに思い出す。

「フェアデルプ灯台で道案内して下さった、あのカラスさん!」
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