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文字数 1,020文字

「おっと、また魔物か…」

 通路に立ち塞がる巨大な合成獣に先頭を歩いていたソルーシュが舌打ちした。上へ向かうにつれて、こう言ったノイシュテルン付近ではお目に掛かれない魔物と遭遇するようになり中々思ったように先へ進めなくなっている。
ナズナの後ろを歩いていたヴィルヘルムも剣と盾を構えて彼女の前に立つソルーシュの横に並んだ。

「ナズナ、今回は援護に回ってくれ」

「分かりました!」

短剣とカードを握り締め、ナズナも構えた。最初にソルーシュが先制攻撃を仕掛け、合成獣の意識をソルーシュに集中させる。そうしている間にヴィルヘルムが後ろへ回り込んで毒の息を吐く蛇の尻尾を狙う。
ナズナはエリゴスを召喚してソルーシュの援護をさせた。青い槍を構え、竜のような翼で宙を舞いながらエリゴスが合成獣の別の頭に襲い掛かる。

『ふん!雑魚が!』

エリゴスの獅子奮迅の戦いぶりを見て負けじとソルーシュも奮戦する。あまりの苛烈さに合成獣は耳をつんざくような咆哮を上げた。
エリゴスには効果が無かったが、ただの人間であるヴィルヘルム達には攻撃の手を緩ませるのに十分な効果だった。当然ナズナも怯み、集中が途切れる。
 その絶好の機会を見計らって、合成獣は自身を中心とした雷の魔法を放つ。合成獣の最も近くにいて無防備になっているソルーシュが直撃しそうになっているのをナズナは見た。助けなければ、とナズナは慌てて神威を急いで召喚し、彼を守らせるために全速力で向かわせる。
ヴィルヘルムは盾で身を守りつつ合成獣から距離を取ってどうにかやり過ごしていた。エリゴスは放たれた魔法を槍で切り裂いて仕切り直しの体勢に入っていた。
神威の守りが間に合ったソルーシュの身体は無傷だったようで、ナズナもほっと安堵の息を吐く。だが――。

「ナズナ姫!」

「危ない!」

 切羽詰まったソルーシュとヴィルヘルムの叫び声にナズナははっとした。
合成獣の放った雷魔法によってナズナの周りの床にも亀裂が走っている。距離を取っていたヴィルヘルムと神威に守られたソルーシュの足元は無事なようだ。
自分の迂闊さにナズナは情けなく思い、彼女なりに急いで避難しようと試みるが、間に合わずに嫌な音を立ててついに足元が崩壊した。
助けを求めるようにナズナは手を伸ばしてみるが、その手は虚しく空を掴み損ねただけだった。ナズナの小さな身体は、合成獣と床の破片と共に為す術も無く暗闇へと落ちて行く。
 落ちて行くうちに、ナズナの意識も暗闇の中へと消えて行った。
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