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文字数 1,020文字

『盗めばよいのではないか?それか俺が実力行使でぶんどってやってもよいぞ』

物騒な提案をしてくるエリゴスにナズナは断固拒否した。そんなことをしては父や協力してくれているジェラルドに申し訳ないし、ミッターマイヤー家とビスマルク家の間に亀裂が生じてしまう。彼らとは今後ともうまく付き合っていかねばならない。
見兼ねた神威がナズナの中より現れ、ジェラルドに提案する。

『恐れながら申し上げます、閣下。兄君にこう進言してみてはいかがでしょう?
 “我が未来の花嫁であるビスマルク嬢にミッターマイヤー家の権威を見せてやりたい”と』

 いきなり姿を現した半透明の精霊の青年に驚きつつも、ジェラルドは神威の提案を採用しようと思った。自尊心の高い兄には効果的な言葉だからだ。
しかしナズナの気持ちを考えると少々複雑である。嘘とはいえ、その場ではジェラルドの婚約者のような振る舞いをしてもらわねばならない。それに何より、ジェラルド自身がエミールを騙せるかどうかが不安である。うまく演技出来ればいいのだが。

ナズナはナズナで神威の提案に乗り気だが、彼女の中にいるユーフェイは不満そうだ。だが、花嫁の意向を汲んで黙ったままである。残念ながら彼には代替案が思いつかなかった。
一応、ジェラルドがナズナに確認を取る。

「…その、ナズナがいいのであればそのようにしようと思うが…いいか?」

「は、はい!頑張ります!」

身内を騙すことに罪悪感を抱いたものの、ビスマルク家にジェラルドだけの密かな借りが出来る。それを対価として、ジェラルドはナズナを伴い再び兄の部屋へと向かった。

 兄はどうやら取り巻きの女性の一人と仲良く部屋で酒を酌み交わしていた。少しタイミングが悪かったかと思いつつ、ジェラルドは顔を顰めた。
兄の部屋は官能的な香の匂いに包まれている。最初に訪れた時には無かった匂いだ。おそらくこの女性が持ち込んだものだろう。
女性はうっとりとした表情で兄の身体にしなだれかかっている。
鼻が普通の人間以上に利くジェラルドにはとてもきつい匂いで、ナズナも初めて嗅ぐ匂いがあまり好きになれないのか少々辛そうだ。鼻を袖口で押さえながら、ジェラルドは兄に話し掛けた。

「お楽しみのところ失礼します、兄上。突然ですが宝物庫の鍵を貸して頂きたい」

エミールはかなり酔っているようで、一瞬弟が誰なのか分からなかった。だが、彼の後ろにいるナズナは理解出来たようで、彼女のほっそりとした身体を好色な目つきで見据えている。
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