7-13

文字数 1,061文字

彼女の返答を聞いて、ユーフェイは重々しく溜息を吐いた。

『…分かった。では話そう。最初に言っておくがどちらにしても、我の花嫁となったその日から汝は十六歳で死ぬと定められている』

「…」

表情で動揺しなかったものの、この空間はナズナの心を正直に写す。
彼女の動揺を暗い青が彩った。それに構わずユーフェイは続ける。

『第二の儀式を執り行う時に、我の花嫁となった者はその魔力と命を使い、帝国繁栄の礎として死ななければならないのだ。
 花嫁と言うよりも生贄と言ったところだな…』

自嘲するようなユーフェイの説明にナズナは言葉を失った。
 リュウシンらが願う帝国の繁栄、そしてそのために行われる第二の儀式の実態に驚きを隠せない。一体どのくらい前からそのような儀式を行ってきたのだろう。
帝国の繁栄はユーフェイの手に委ねられていると言っても過言ではない。今まで犠牲になった歴代の花嫁達もそうだが、ナズナから見れば彼もまるで…。

(ユーフェイも帝国繁栄のための、生贄みたい…)

そう思わずにはいられなかった。
そこで彼の表情が歪み、自身の髪をぐしゃりと掴む。

『我は…いや、俺は…もう神でいることに疲れた』

 ユーフェイの見た目は二十代の青年そのものだが、今の彼は全てに疲れた老人のように見えた。彼がどのくらいあの国で神という仕事をやっていたのかは分からないが、ジンフーと対峙した時に流れ込んできた彼の昏い心を思うに、とてもよかったものとは言い難かった。
幼いナズナとユーフェイが交わした約束の真意に、さすがのナズナも想像がつく。

「あの約束は…私の魔力と命、そして貴方の魔力を使い、神という枷から解放するためのものだったのですね」

『そうだ。第二の儀式を執り行う時にな。お前がその命を散らす時、俺の願いも成就され神としてではなく、ただの水妖族の男としてようやくその生を終えられるのだ』

そして自身の願いを叶えるために、散らばってしまった自身の魔力も必要になる。だから彼はまだ帝国に戻れないのだ。そこまで考えて、ナズナは彼の言葉に何か引っかかるものがあることに気付く。

「…ちょっと待って下さい。ユーフェイ、貴方は先程、“神としてではなく、ただの水妖族の男としてその生を終えられる”と仰いましたよね?
 貴方は生まれた時から神ではなかったのですか?」

ナズナの指摘にユーフェイは遠い目をして静かに頷き、肯定する。

『ああ。俺は時の皇帝によって生を歪められた、造られた神に過ぎない』

 途端、彼の表情が苦い物に変化する。当時のことを思い出したのか、握られた拳は怒りと憎悪で震えていた。
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