6-9

文字数 1,006文字



 ナズナがジェラルドと共に記憶の欠片を探す為に城の中を探索している同時刻。
ノイシュテルン王国領・ポーラル=シュテルン港町に水妖族の青年リュウシンの姿があった。皇帝からの連絡にまもなく同胞の一人が派遣されるとのことで、迎えに来ている。
正直助けなどいらないが、皇帝の命は絶対だ。従わねばならない。
派遣される同胞が誰かもリュウシンには何となく予測が出来ていた。おそらく、“彼”だろう。

 住居や店が立ち並ぶ区域から港に移動し、同胞の到着を待つ。
港には停泊している数隻の船が穏やかな波に揺られている。港近くの酒場からは船乗り達の賑やかな声が聞こえてきた。そんな音に紛れて、海の方から一人の青年が港へ上がってくる。
 リュウシンと同じ瑠璃色の髪と緑の瞳、そして魚の鱗のような透き通った水色の耳。背丈は彼より少し高く、黒を基調とした赤の装飾が施された服を着ている。
海から来た青年はリュウシンの予想した通り、元同僚であり今は皇帝付きの護衛役であるシャオ=ジンフー。
リュウシンは表情を変えぬまま、元同僚を出迎えた。

「来たか。それにしても、オマエが来るとはな」

それだけ帝国も焦っているのだろう。ジンフーは相変わらずのリュウシンの不遜な態度を柔和な笑みで受け流す。

「それで、我らがユーフェイ様とシェンジャ様は何処に?」

「ユーフェイ様の魔力の気配が以前よりも大分分かりやすくなっている。今はノイシュテルン王国のどこかだ」

「そうですか。それだけ分かれば十分です。参りましょう、リュウシン」

「ああ」

 ポーラル=シュテルンの港町からノイシュテルン王国城下街は魔法による転移装置で繋がっており、誰でも自由に使用出来る。ノイシュテルン王国城下街に着けば、水妖族の唯一神の魔力の気配はもっと探りやすくなるだろう。
二人はポーラル=シュテルンの港町の中心にある転移装置を使い、ノイシュテルン王国城下街に飛んだ。魔法の力によるものなので、移動時間は一瞬である。
ノイシュテルン側の転移装置は街の市場が立ち並ぶ商店街の片隅にあった。時間が時間なためか、人の数がまばらだ。店側もまもなく閉店時刻のためか、商品を片付ける作業に追われている。
家へ帰ろうとする人々の合間を縫って、いち早くユーフェイの気配を察知し、リュウシンとジンフーは彼とその花嫁がいると思われる場所へと駆け足で向かう。
ノイシュテルン王国を建国した五大貴族のうちの一つ、ミッターマイヤー家の城へ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み