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文字数 1,047文字

 いつの間にかナズナの髪をメルセデスの柔らかな手が撫でている。その優しい手つきに、そして彼女の温もりにナズナは胸がいっぱいになった。
身体を預けてくるナズナの姿に、遠い昔別れた妹達の姿が重なる。彼女達は今も元気でやっているだろうか。むしろ行方不明になっていたのはメルセデスの方だったので、連絡がないことを心配しているかもしれない。
運がいいのか悪いのか、今メルセデス達がいる場所は彼女の故郷の村があるエドニス大陸だ。近いうちに連絡を取るべきだとメルセデスは密かに思う。

 ふと胸を押される感触がしてメルセデスはナズナの身体からそっと離れた。
小さな主ははにかんだ笑みを浮かべて頭を下げる。

「話を聞いてくれてありがとうございます。その…少し気が楽になりました」

少しでも主の力になれたことが嬉しくてメルセデスも笑顔を返すが、それもすぐに消した。
 ナズナが取り戻した記憶の内容とユーフェイが宿った経緯、そして彼女が水妖族に狙われる理由も理解した。
水妖族の国が神の花嫁の命を使って帝国を豊かにする儀式を、ナズナは受けるつもりなのだろうか。そこがメルセデスにとって一番聞きたいところである。

 このことについては水妖族の神にも尋ねたいと考えている。彼はこの非人道的な儀式についてどのように考えているのだろう。
メルセデス個人の意見は、このような時代錯誤な儀式を用いるのは間違っているのではないかと思っている。ユーフェイとは直接話したことがないので何とも言えないが、メルセデスが密かに想い慕う神威なら同意してくれるだろう。
 それにもしもこのままナズナが儀式を受けて若い命を散らしたら、神威が悲しむ。
彼への恋情を抜きにしても、メルセデスはナズナを死なせたくない。可能であれば、彼女とユーフェイの契約を破棄させたいところだ。
きゅっと唇を引き結び、メルセデスは主に問う。

『ナズナ様は…記憶を全て取り戻して、ユーフェイの魔力を完全なものにしてどうなさるつもりですの?
 このまま第二の儀式とやらを受けるおつもりで?』

 メルセデスの質問にナズナは凪いだ海のような瞳を向け、黙って頷いた。
主の答えにメルセデスが口を開こうとしたが、ナズナ自身が遮った。

「私は…たくさんの過ちを犯してしまいました。だから、償わなければなりません」

その過ちに手を貸してしまったユーフェイにも。
彼は皇帝の一族を憎んでいるかもしれないが、民を傷つけるつもりはなかったはずだ。
 だからナズナは決めたのだ。
この命はユーフェイと水妖族の者達へ償うために捧げようと。
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