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文字数 1,030文字

はっとして顔を上げると、得体の知れない笑みを浮かべたホムラと目が合った。
 彼の笑みにぞくりと悪寒が走り、思わず逃れようと手を引くが竜人族の王はそれを許さない。いつの間にか自由だったはずの右手も掴まれていた。ナズナの両手を拘束する力は徐々に強くなっていく。
怯えの色を浮かべるナズナの紅い瞳をホムラは楽しそうに見下ろしていた。

「私はずっと君を待っていたんだ。
 本当なら、水妖族の神の花嫁は儀式が出来る年齢に至るまで神殿にいなきゃいけないはずだけど」

 ナズナの頭の中が真っ白になる。
何故彼はナズナが神の花嫁と分かったのだろう。それに、彼とは初対面のはずだ。一度も会ったことはない。リュウシンと初めて会った時とは違い、彼には懐かしさの欠片もなかった。
 一方的に彼がナズナを知っているのだろうか。そうだとしたらメルセデスの推測通りということになる。確かに、コウヅキ国とツァンフー帝国は争っていた歴史があった。過去にこの竜人族の少年王とユーフェイに面識があっても不思議ではない。中に閉じ込められているユーフェイが呻く。

『確かに遠い昔、この者の祖先と刃を交えたことはある。
 だからと言って、この者が我が魔力を知っているとは思えないのだが…』

『いいえ。ナズナ、ユーフェイ殿…答えは簡単ですよ。彼に意識を集中してみて下さい』

神威に促されて、ナズナの代わりにユーフェイが意識を集中して彼を探る。しばらくしてはっと息を呑んだ。

『あの少年…何故我が花嫁の記憶の欠片を持っている?』

驚きつつも、納得する。記憶の欠片から、ユーフェイの魔力を知ったのだろう。
だが何故彼が所持し、そしてナズナがすぐに感知出来なかったのか。
突如固まったナズナをホムラが訝しんだ。そして合点がいったのか手を叩く。

「…ああ、中にいる者達と話しているのか。どうして私が儀式のことを知っているのかって。
 そりゃあ停戦しているとはいえ、水妖族は我々にとっては一応敵だからね。敵のことは知っておかないと」

だからといって、ナズナの記憶の欠片を所持していることと、待っていたこととは何一つ繋がらない。唯一理由を知っていそうな魔界の王の名を心の中で呼び掛けてみるが、彼は応えてくれなかった。
 ここ最近、彼は主の呼び掛けに応えないことが多い。神威達はそれについて憤っているが、ナズナはきっと魔界での仕事が忙しいのだろうと信じている。
竜人族の王はさらに続けた。

「…だから、君の命が後僅かな時間しかないってことも知っているよ」

「!!」
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