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文字数 1,019文字

 ジェラルドは無言で招待客達の先導をし、当主代行の者がいる部屋まで案内する。
部屋に着くと扉を軽くノックし、ジェラルドは中にいる者への入室の許可の確認を取った。

「兄上、私です。客人達をお連れ致した」

「うむ。入りたまえ」

「…失礼する」

ジェラルドに続き、ナズナ達も後に続く。毛皮を惜しみなく使われた座り心地の良さそうな椅子に座ったまま、ミッターマイヤー家当主代行である長兄エミールが客人達を出迎えた。

「ようこそ、ビスマルク公の愛娘、ナズナ嬢。ついに我が弟にも春が来たか」

「?お、お久しぶりです、エミール様。本日はありがとうございます」

ヴィルヘルムとソルーシュへの何の挨拶もなかったことと、最後に付け加えられた意味深な言葉がナズナの心に引っ掛かったが、まずは前から用意していた挨拶の口上を述べる。少々緊張してどもってしまったが、最初だけだ。
 明らかに無視をされたヴィルヘルムとソルーシュは眉を顰めていたものの何も言わない。
いつものことなのだ。
このエミールという男は自分よりも身分の低いヴィルヘルムが騎士団首席に選ばれたことを快く思っておらず、また異民族であるソルーシュのことは完全に見下している。もちろんエミールより身分の低いナズナのことも見下していた。ただ彼女は貴族なので彼らと扱いが少し違う。

 彼らのやりとりを見ながら、ジェラルドは兄を睨み付けていた。
身分でしか物事を測れない実兄がジェラルドは嫌いだった。というよりもこのミッターマイヤー家自体が嫌いだった。だから彼は幼いうちから騎士団に志願し、家を出た。
とはいえジェラルドに全く情が無い訳ではない。騎士団に身を置き、将軍としての父の背中を見ていくうちにその気持ちはほんの少しだけ緩和され、父に対してだけは考えを改めるようになった。兄や姉、妹達に対しては全く変わらないが。

 エミールはジェラルドの視線に気づかずニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべたまま無遠慮にナズナを頭からつま先まで観察する。
彼の不躾な視線から庇うようにジェラルドがナズナを後ろに下がらせ、彼女の前に立った。

「兄上、挨拶も済んだのでそろそろ行きます」

さりげなくナズナを庇った弟を面白そうに眺め、エミールは唇の端を上げる。彼の返事を待たずにジェラルドはさっさとナズナ達を引き連れて退出した。

エミールの部屋から退出し、次に向かったのは晩餐会の用意がしてあるジェラルドの私室に近い部屋だ。そこへ向かう途中、ソルーシュが控え目に質問する。
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