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文字数 1,071文字

「リュウシン…!」

 ナズナが侵入者の名前を叫んだ瞬間、応えるかのように彼が素早く動き出す。
最初からホムラのことなど目に入っていないかのような、迷いのない動きだった。
阻もうとする竜人族の王の頭を飛び越え、ナズナの前に降り立つ。
彼女の姿をまじまじと無遠慮に眺めて舌打ちをした。

「呆けている場合か。さっさとここから出るぞ」

「させないよ」

リュウシンの背後からホムラの拳が襲い掛かる。ひらりとそれを避けて、リュウシンはナズナの身体を突き飛ばした。砂利の上に尻もちをつき、痛みで涙目になる。

 水妖族の青年が体術に秀でていることをナズナも知っているが、竜人族の王もまたそうだった。リュウシンの服装とは対照的な動きにくい服装であるにも関わらず、舞うような身のこなしで翻弄している。
リュウシンの動きを流水に例えるなら、ホムラの動きは燕のようだ。裾のある服装も相まって余計にそう思う。
侵入者と対峙する竜人族の王は笑う。ただし目は笑っておらず、冷ややかなものだった。

「よくここまで来たね…って褒めてあげたいところだけど、彼女は渡さないよ。だって彼女はもう私のものだし」

リュウシンの眉間の皺が深くなり、問い詰めるような視線をナズナに送る。
いまだ尻もちをついたままのナズナは、自身の首輪に触って俯いた。彼女が姿を消した後に一体何があったのか知らないリュウシンは再び舌打ちする。

 どうせナズナがドジを踏んだのだろう。
いくら精霊達がついているとはいえ、彼らがいなくては所詮ちょっと戦える人間の少女なのだ。それも武器を持っている時に限るが。

 本当に世話が焼ける少女だ。心の内で溜息を吐き、リュウシンは竜人族の王を見据える。
元同僚が撹乱して稼げる時間はあまり長くない。目の前の男を倒すよりもナズナを連れて抜け出したいところだ。ナズナがいなければ、純粋に戦ってみたい相手ではあるが。

「なら…奪い返すまでだ」

「その意気やよし。でも、そう簡単に行くかな?」

 竜人族の王の茶化すような物言いにリュウシンが地面を蹴り、その勢いで彼の顔面を狙った飛び蹴りが炸裂する。
しかしホムラはそれを片手で受け流し、リュウシンの勢いを利用して彼の身体を背中から地面に叩きつけた。勢いが良すぎたため、それに比例して受けるダメージも大きく、一瞬リュウシンの息が詰まる。
追い打ちを掛けるようにホムラが動くが、水妖族の青年は瞬時に身体を捻って避けた。
機械の両腕から銃口を出し、発砲する。銃弾はホムラの左頬すれすれを掠めた。おかげで少しだけ血が滲む。
 リュウシンの機械の腕を目の当たりにして、ホムラの目が輝いた。
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