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文字数 980文字

突然の話にヴィルヘルムは青い瞳を丸くした。今まで頑なにナズナを外の世界へ出すことを渋っていた叔父の心境の変化に困惑している。

「ですが叔父上、ナズナは先程の侵入者に狙われている身の上です。
 彼女とソルーシュだけでは精霊達がいても太刀打ち出来ないと思いますが…」

「だからお前を呼んだ。これよりお前はナズナ護衛の任を与える」

「何と…!」

 ヴィルヘルムが尊敬している叔父であり、大将軍でもあるジークに直接命を下されることは彼にとって大変な名誉である。
しかしヴィルヘルムは騎士団首席ではあるが、まだ身分としては一介の騎士に過ぎない。
そんな自分に彼の愛娘の護衛が務まるだろうか。
先程の侵入者との戦いでもあまり役立てていたかどうかも微妙なところなのに。どうせなら自分よりももっと実力のある者が護衛についた方が良いのではないか。

 例えば百戦錬磨の傭兵を雇うとか。それかジーク直属の部下をつけるとか。

そう進言しようとしたところでヴィルヘルムははたと思い出す。
ナズナは人見知りだ。それをジークも理解しているからこそ、ヴィルヘルムを選んだのだろう。それなら仕方ないとヴィルヘルムは観念した。

「…分かりました。ヴィルヘルム=フォルトナー、ビスマルク公ご息女護衛の任、謹んでお受け致します」

「頼んだ。お前の上官には私から話しておく。もうナズナ達の準備は済んでいる。
 だが念には念を、外へ出る時は隠し通路から行け。私はこのまま王宮へ参内する。皆、くれぐれも気を付けてな」

短い挨拶の後、別れを惜しむかのようにジークは愛娘と抱擁を交わす。願わくば、これが最後の別れとならぬよう祈りながら。



 隠し通路を歩き、ナズナ達は地上に通じる扉の前にいた。先頭を歩いていたソルーシュが一向に扉を開けようとせず、耳をくっつけていることにナズナは首を傾げた。

「ソル?」

ソルーシュは何かに集中しているようでじっと聞き耳を立てている。

「扉の前に誰かいないか探っているのさ」

従兄が優しくナズナに教えてやる。そういうことか、とナズナは納得して神威に話し掛けた。

「神威、扉の前付近をぐるっと見てきてもらえませんか?」

『それもいいですが、折角なのでナズナに新たな技能を教えます。まずは私を呼び出して下さい』

はい、とナズナは素直に返事をして神威を呼びだした。淡い青の光を纏った鳥の姿の神威がソルーシュとナズナの間に現れる。
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