7-16

文字数 1,038文字

ジンフーの出まかせにリュウシンとナズナの身体が強張った。よりにもよって何故恋人なのか。

「おい、ジン…いや、兄さん…」

「明日結婚式を挙げるはずだったのに…可哀想でしょう?
 早いうちに医学が発達しているエドニス大陸へ向かわなければ…」

芝居掛かった口調でジンフーは弟想いの兄を熱演する。しかし相手は余計に不信感を抱いたようだった。

「…怪しいな。胡散臭さがぷんぷんするぜ。三人共、今すぐマントを脱げ」

 途端にジンフーの纏う空気が一変し、冷たく張り詰める。リュウシンもいつでも動けるように、相手に分からないようほんの少し身構えたようだ。
一向にマントを脱ごうとしないジンフー達に男性はもう一度言った。

「聞こえなかったか?オレはマントを脱げと言ったんだ。お前も、お前の弟も、そしてその恋人とやらもな。
 ビスマルク公及び、ミッターマイヤー公からここは誰も通してはならないと命じられている。
 お前の話が本当なら、オレが腕のいい医者を知っている。マントを脱いで確認したら、そこへ案内してやるよ」

「…貴方こそ、ご自身のマントをお脱ぎになったらどうですか?」

ジンフーの反論に男性は小さく笑う。

「ごもっともだ」

 ばさりとマントを脱ぎ捨てる音が聞こえ、リュウシンの息を呑む気配がナズナの身体にも伝わる。ジンフー達の視線の先には誰がいるのだろう。
狭い視界の中、ようく目を凝らしてみると見知った南大陸フェルドースの民族衣装が目に入った。そして、褐色の肌と移動民族ファリドの証でもある刺青も。
視界に入った情報から、彼らの前に誰がいるのかナズナは瞬時に悟った。

「ソル…」

 ナズナの呟きが聞こえたのか、リュウシンがマント越しに冷たい視線を寄越してくる。
それに構わず、ナズナは幼馴染の商人の名を呼んだ。

「ソル…!」

慌ててリュウシンがナズナの口を片手で塞ごうとしたが、すでに彼女の呼ぶ声は彼の耳に届いていた。
紫の瞳を猫のように細め、ソルーシュは自身の武器である曲刀を構える。

「ナズナ姫、遅れて申し訳ありません。今しばらくご辛抱を」

 ジンフーとリュウシンが舌打ちし、強行突破を試みる。ソルーシュ一人だけなら、どうとでもなるだろう。そう判断し、行動に移そうとしたリュウシンの喉元に冷たい感触がした。
視線だけ動かして見ると、自身の喉元にナイフが突きつけられている。

「僕の従妹を返してくれる?」

ぞっとするような低い声にナズナは目を丸くする。顔を上げた拍子にマントのフード部分が落ち、ナズナの顔が白日の下に晒され、視界が開けた。
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