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文字数 1,007文字

誰が見ても分かるように、ヴィルヘルムはこのミッターマイヤー家次女のお気に入りである。そしてエッダはそのお気に入りの彼の前ではしおらしい乙女として振る舞う。だが、それ以外の男の前では強気な自信家で我儘で面倒な狂犬へと変貌する。
いくら女好きなソルーシュでもご遠慮したいタイプだ。
 お気に入りのヴィルヘルムがいなくなったことにより、エッダの機嫌は目に見えて不機嫌になっていく。ソルーシュも逃げたくなってきた。
エッダの美しい顔が段々怒りに歪んできて、ソルーシュを呪い殺さんばかりに睨み付ける。
怒りたいのはこっちだと内心溜息を吐きながら無言の威圧感を無視していると、今度はエッダの妹イリスがソルーシュの前に立った。

「ソルーシュ」

甘ったるく名前を呼ばれてソルーシュは今度こそ頭を抱えた。
 彼女は姉エッダとは違い、完全に人間の姿をしていてナズナと同い年だ。しかし言動が幼く、無理に無邪気に振る舞っている。もちろんそこは姉同様お気に入りの者の前だけだ。
ソルーシュはイリス(というよりミッターマイヤー家の子供達)の評判を前々から知っていたので、初めて彼女と会った時から適当にあしらっていたのだが、何をどう間違ったのかイリスは彼の態度を照れ隠しと認識した。
それ以来、会う度にソルーシュもびっくりする程の過激なアタックをしてくるようになってしまう。
今はそれにうんざりして初めて会った時以上に雑(ソルーシュ比)に扱っているのだが、どうやら彼女のおめでたい脳味噌は学習せず、一向に改善されない。
 イリスが来たからには、早々に理由を付けてソルーシュも本格的に退散した方が良さそうだ。

「これはこれはイリス様。相変わらず無駄にお元気そうで」

棒読みで挨拶するソルーシュにイリスは可愛らしく頬を染めた。

「うふふ、ソルーシュに会ったからだよ!」

甘ったるい声でそう言うと、きゃ、言っちゃった!とわざとらしくイリスは両手で顔を隠す。しかしソルーシュは彼女の取り巻きの一人ではないので、微塵も心が動かなかった。

「どうも。それより私は警護で忙しいんであっちの取り巻きの人とダンスでも踊ってきたらどうです?」

「もう!相変わらずつれない人なんだからぁ。ソルーシュが誘いに来ないから、イリスが直々に誘いに来たんだよ!
 最初はソルーシュと踊るって決まってるんだから!言わせないでよね!」

ぷんすかと頬を膨らませるイリス。ソルーシュが用意した逃げの口上は華麗に無視された。
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