10-3

文字数 1,023文字

ソルーシュも彼女とは長い付き合いでよく知っているため、諦めの境地に達していた。
 彼の返答にパウラは表情を明るくしたものの、ヴィルヘルムは依然として不服そうなままである。
こうしている時間すら惜しい気持ちを前面に出していても、この幼馴染の騎士は相変わらず空気が読めない。
そんな彼に噛んで含めるようにソルーシュは言った。

「こうしている間にも、ナズナ姫との距離が遠ざかる。今は一刻も早く動かねえと」

 攫われた従妹の名前を出して、ようやくヴィルヘルムははっとする。そして反省し、小さく謝罪した。パウラも神妙そうな表情でそれに倣う。自分がここまで来た目的は彼らの手伝いであって、邪魔しに来た訳ではないのだから。
ようやく足並みが揃ったところで、ソルーシュ達は人探し専門の魔法使いがいる場所へと急ぐのだった。



「起きていたか」

 冷ややかな声と視線が容赦なく飛んでくる。そのせいでナズナの気持ちがまた暗いものになった。それをおくびに出さず、俯いたまま頷く。
彼が尋ねてきたということは、もうこの村を発つということだろう。寝乱れた髪を手櫛で整えると、再びリュウシンから声を掛けてきた。

「オマエに会いたいと言っている者が来た」

「え?わ、私にですか…?」

妖精と精霊の村ローグに訪れるのはこれが初めてだし、メルセデス以外に妖精や精霊の知り合いはいない。

 一体誰が何の目的で自分を訪ねて来たのだろうか。
会うべきか否か悩んだが結局会うことにした。

「会います」

短くそう答えたところで、リュウシンの背後から背の低い少女がひょっこりと顔を出す。
彼女がナズナを訪ねて来た者だろうか。どこか面差しがナズナのよく知る大地の精霊の娘に似ている。
少女は黄色のワンピースに白の裾が短いローブを纏い、栗色の短い髪を揺らしながらリュウシンとナズナの間に立つ。顔立ちは活発そうな印象を受け、若草色の瞳がナズナを見据えていた。

「初めまして、私はメルセデスの姉のリフィーよ。よろしくね」

見た目に反して落ち着いた声音が響く。
リフィーと名乗った少女はメルセデスによく似た笑みを浮かべてナズナの右手を引いた。
てっきり握手かと思ったのだが、彼女はそのままナズナの右手を引っ張りどこかへ誘おうとしている。
戸惑うナズナの代わりに、水妖族の青年が厳しい声音で尋ねた。

「おい、どこへ連れて行く気だ」

「私達のお母様のところへ。メルセデスが誰の娘なのか、知っているでしょう?
 お母様が妹の契約主である彼女に会いたいと仰せなの」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み