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文字数 1,032文字

 改めて彼らの戦い方を観察してみると、体術を中心にした戦い方をしている。
武器を中心に戦う従兄の騎士や幼馴染の商人、そして獣人族の貴公子達とは違う戦い方を目の当たりにして、ナズナは素直に感心した。水妖族の青年達の動きは流水を思わせる。

 ナズナの体力を考慮して、一旦大きな樫の木の下で休息を取ることにした。
夜も大分更けてきた。遠くの方で狼の遠吠えが聞こえる。
ジンフーがナズナの横に腰を下ろしながら、大地の精霊に尋ねた。

「メルセデス殿、ここはどの辺りになりますか?」

『ここは国境の森の中心であり、この大きな樫の木こそが警備隊の司令塔となる隊長のいる場所ですの。
 ほら、現にもう私の気配に気づいて迎えに来て下さいましたよ』

 その時、メルセデスの背後から淡い蛍のような光が漂ってくる。最初は一つだったが、最初の光に呼応するように複数の光が現れた。
その中で一際大きく輝く光がメルセデスとナズナの前へ移動し、やがて一人の妖精の姿へと変化する。
中性的な容姿と体型をしているため、この妖精の性別がどちらなのかは不明である。しかし纏う服装から、この妖精がメルセデスの言うこの森の警備隊長だということは判別出来た。
 警備隊長がメルセデスに向かってびしりと敬礼する。

『これはメルセデス様…!今まで一体どちらにいらしたのです?
 この数年、貴方様の行方が知れなくて、皆心配しておりました』

『心配掛けて申し訳ありません。少々込み入った事情がありまして…。
 お母様や姉妹達には後で会いに行きますわ』

『是非そうして下さい。ガイア様達も喜ばれることでしょう。
 ところでメルセデス様、こちらの方々は…?』

 不審そうな目つきで見てくる警備隊長にリュウシンが睨み返す。ジンフーは警戒を抱かせないような穏やかな笑みを浮かべたままだが、元同僚のおかげで警備隊長の不信感を拭えそうにない。
ナズナは居心地が悪そうにきょろきょろと忙しなくメルセデスと警備隊長のやり取りを見守っている。
ナズナは妖精の血が混じっているためまだいい方だが、問題はこの水妖族の二人の青年だ。水妖族はメルセデスの知る限りでこの中央大陸エドニスにいない。存在自体は一応文献には載って知っているが、こうして相見えることは初めてなのだ。

『こちらの女性は私の主で、東大陸へ向かう途中なのです。後ろの二人は彼女の従者ですわ。
 トリアへ向かう前に、身体を休めがてら村へ寄ろうかと思いまして』

『なるほど、分かりました。では、こちらへ。近道をご案内致します』
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